第5部-第54章 研修初日
研修会場は、警備会社の本社ビルの四階にあった。
会議室の扉を開けると、すでに十人ほどの男女が席に座っていた。
年齢も服装もバラバラだが、皆どこか緊張の色を浮かべている。
浩一は端の席に腰を下ろし、支給された研修資料に目を通した。
「警備員の心得」「現場での安全管理」「トラブル対応」――
文字は頭に入ってくるが、どこか現実感がなかった。
午前中は講師による座学が続いた。
講師は現場経験が長いという中年の男性で、実例を交えながら淡々と話を進めた。
「立っているだけが仕事じゃない。周囲の異変に気づくことが一番大事なんだ」
その言葉が、少しだけ浩一の胸に響いた。
昼休み、隣の席の男性が声をかけてきた。
「初めてですか?」
年齢は自分よりやや若いだろうか。浩一が「ええ、そうです」と答えると、
「俺もですよ。まあ、やってみなきゃ分からないですよね」と笑った。
その笑顔に、わずかだが緊張がほぐれた。
午後は実技訓練。立ち姿勢の確認、巡回ルートの歩き方、無線機の使い方。
長時間の立ち仕事で足がじんじんと痺れたが、最後まで倒れずにやり切った。
終了後、講師から「初日にしては悪くない」と言われた瞬間、浩一は胸の奥に小さな達成感を覚えた。
帰りの電車の窓に映る自分の顔は、ほんの少しだけ引き締まって見えた。




