第4部-第39章 家計の崩壊
問い詰められた翌日から、母は家計の管理を完全に自分の手に移した。
通帳もキャッシュカードも、浩一の手元から消えた。
財布には、小銭と千円札が一枚だけ残された。
「当面の生活費は私がやりくりするから。浩一は必要なときに言って」
その言葉は穏やかだったが、事実上の家計差し押さえだった。
冷蔵庫には母が安売りで買ってきた食材が詰め込まれ、メニューも質素になった。
インスタント食品や嗜好品は一切なく、菓子パンもカップ麺も姿を消した。
母が買い物に出るとき、浩一は留守番をするしかなかった。
小遣いはゼロ、外出の理由もない。
カード会社や債権回収の通知は母の目にも届くようになり、封筒を開けるたびに深い溜息が聞こえた。
その音が、胸に突き刺さる。
電気は何とか再開したが、支払い期限は常にギリギリ。
ガスや水道も同じで、赤や黄色の警告ハガキが生活の一部になっていた。
夜、食卓で母は家計簿を広げたまま、黙々と数字を書き込んでいた。
「これは無理ね」「ここは削れる」――その独り言が、まるで判決文のように重かった。
浩一は自室に戻り、暗い天井を見つめた。
自由は小さな金額から奪われ、やがて何も残らない。
この家にいても、自分の居場所はもうなくなりつつある――そう思った。




