第4部-第38章 母からの問い詰め
朝食を終えたあと、母は食器を片付ける手を止め、ゆっくりと浩一の方へ向き直った。
その目は、いつもの優しさを覆い隠すように硬く、まっすぐだった。
「浩一……正直に答えてほしい。借金、してるでしょう?」
胸の奥が一瞬で冷たくなる。
否定の言葉が喉まで上がったが、そのまま飲み込んだ。
嘘をつけば、その場はやり過ごせても、もう母の目をごまかせない。
「……少し、ある」
声はかすれていた。
「少しじゃないはずよ」
母はため息をつき、椅子に腰を下ろした。
「通帳も見た。生活費だけじゃ説明がつかない額が減っている。何に使ったの?」
浩一は視線を逸らし、畳の模様をぼんやりと見つめた。
「……色々だよ。必要な出費もあったし……」
その曖昧な答えに、母の眉がわずかに動いた。
「正直に言いなさい。逃げてても何も解決しない」
その声には怒りよりも、深い失望が滲んでいた。
浩一はついに顔を上げ、途切れ途切れに経緯を話した。
最初は医療費や生活費の補填、しかし途中からは支払いの穴埋めのために別のカードを使い、雪だるま式に膨らんでいったこと。
母は最後まで黙って聞いていたが、その目はどんどん遠くなっていくように感じた。
「……どうしてもっと早く言わなかったの?」
その問いに、浩一は答えられなかった。
答えられない沈黙が、二人の間に冷たい壁を作った。
やがて母は席を立ち、洗い物に戻った。
その背中は、もう簡単には振り向いてくれない気がした。




