第4部-第36章 電気が止まった日
その日は昼前に目を覚ました。
こたつの中は冷たく、部屋全体が妙に静かだった。
テレビのリモコンを押しても画面は真っ黒のまま、壁の時計も秒針を刻んでいない。
その時点で、すぐに理由は分かった。
電気が止まったのだ。
数日前に届いていた黄色いハガキの警告を、とうとう現実にしてしまった。
ブレーカーを上げ下げしても何も変わらず、部屋は昼間でも薄暗い。
冷蔵庫の中のわずかな食材が、これから少しずつ傷んでいくことを想像すると、胸が締め付けられた。
スマホの充電残量は20%。
コンセントは沈黙し、充電器を差し込んでも反応しない。
これが尽きれば、外界とのつながりも消える――そう思うと、画面を触る指がためらわれた。
母にはまだ言えなかった。
「停電みたいだね、工事でもしてるのかな」と軽く笑うと、母は「そうかもしれないね」と答えた。
だが、その笑顔はどこか不安げで、真実に薄々気付いているようにも見えた。
日が沈むと、部屋は闇に沈んだ。
懐中電灯も電池が切れていて、唯一の明かりはガスコンロの火だけ。
湯を沸かしてカップ麺を作ると、その湯気がやけに頼もしく見えた。
暗闇の中、湯気をすすりながら浩一は思った。
――これが「終わりの始まり」なんだろう。
明日は何が止まるのか、それを考えるだけで背筋が冷えた。




