第4部-第35章 止まる生活
最後のキャッシングから一週間。
財布の中の札はもうなく、小銭入れには百円玉が三枚。
冷蔵庫にはペットボトルの水と、半分残った味噌だけがあった。
カードは限度額いっぱいで、ATMに通しても「ご利用できません」と冷たい文字が返ってくる。
その画面を見た瞬間、頭の中で何かがスッと切れた気がした。
もう、借りられない――その事実が、現実のすべてを鈍く重くした。
光熱費の支払いも遅れ始め、電気会社から黄色いハガキが届く。
ポストを開ける手は震え、封筒を引き抜くときに視界が滲んだ。
病院からの領収書も増え続け、母には「大丈夫」としか言えない。
時間だけが過ぎていく。
朝、目が覚めても布団から出られない。
腹が減っても、外に出る気力がない。
テレビをつけても内容は頭に入らず、スマホを見ても同じページを何度もスクロールしている。
母が作る簡素な夕食が、一日の唯一の「動き」だった。
食卓で向かい合っても、話題は天気かニュースだけ。
その間も、頭の片隅では「来週、電気が止まるかもしれない」という予感が居座っていた。
ある晩、部屋の電球が切れた。
買いに行く金もなく、浩一は真っ暗な部屋でこたつに潜り込んだ。
静けさの中で、雨の音だけが遠くから聞こえる。
その音が、やけに長く、重たく、未来のない響きに聞こえた。




