第4部-第32章 逃げるような生活
督促の電話が鳴る時間帯を避けるため、浩一は昼夜逆転の生活を始めた。
昼はカーテンを閉め切って眠り、夜になるとコンビニや深夜営業のスーパーに出かける。
外に出る時間をずらすことで、近所の人に会う機会も減った。
ポストを開けるのも、週に一度だけ。
そのときも、手を入れる瞬間に胸がざわつき、無意識に深呼吸してから封筒を引き抜く。
中身を見ずに引き出しの奥へ押し込み、そのまま忘れたふりをする。
病院に行く日だけは昼間外に出るが、帰りはすぐに家へ直行する。
母には「近所の人とあまり顔を合わせたくない」とは言えなかった。
ただ、「少し風邪気味だから夜型にしてる」と嘘をついた。
母は疑いもせず、「体調には気をつけなさいよ」とだけ言った。
食事も次第に簡素になった。
カップ麺、菓子パン、冷凍のピラフ。
ゴミはまとめて押し入れに突っ込み、月に一度だけまとめて出すようになった。
部屋にはほこりが溜まり、空気は淀んでいく。
夜中、スマホの通知音に心臓が跳ねることが増えた。
たとえ友人からのメッセージでも、画面に「未読」の文字が並ぶのを見るのが怖くなった。
既読にした瞬間、何か責任を負わされる気がしてならなかった。
そんな生活を続けるうちに、時間の感覚が曖昧になった。
今日は何曜日か、何日かすら考えなくなり、考えることといえば「次の支払いをどうするか」だけになった。
それは、まるで水面下にゆっくり沈んでいくような感覚だった。
光が届かなくなる前に泳ぎ出せばいい――そう思いながらも、体はもう動かなかった。




