第3部-第21章 SNSでのもう一人の自分
冬の夜、パソコンの画面に小さな通知が点滅していた。
SNSのメッセージだ。
「昨日の投稿、面白かったよ」
短いその一文に、浩一はわずかに口角を上げた。
現実の自分は、無職で、外にも出ず、母と二人で暮らしているだけの人間だ。
だがネットの中では、ニュースや趣味の話題に詳しい「知識人」として振る舞える。
写真も名前も適当なものを使い、プロフィールには「在宅ワーク」と書いた。
それだけで、誰も本当のことは疑わない。
タイムラインにはフォロワーたちの反応が並ぶ。
冗談に笑ってくれる人、真剣に議論をしてくれる人、感謝の言葉を送ってくれる人。
その一つひとつが、現実では得られない承認欲求を満たしてくれた。
やがて、浩一は一日の大半をSNSに費やすようになった。
朝起きてすぐスマホを手に取り、昼はパソコンの前で返信を書き、夜は深夜までチャットや通話に参加する。
食事の時間さえ、通知が気になって落ち着かない。
ある日、フォロワーの一人から「今度会いませんか?」と誘われた。
現実の自分を知られるのが怖くて、「仕事が忙しい」と嘘をついた。
本当は、家から駅まで歩くことすら面倒だった。
現実の自分は、年齢も経歴も誇れるものがない。
けれど、ネットの自分は、会話も上手く、知識もあり、少し頼りにされる存在だ。
その差が広がるほど、現実の自分を直視するのが辛くなった。
夜、母が寝静まった後も、部屋の灯りは消えない。
キーボードを叩く音と画面の光だけが、この小さな部屋を支配している。
――ここにいる限り、自分は「誰か」でいられる。
浩一はそう信じ込みながら、また新しい投稿を書き始めた。




