第2部-第16章 部屋の灯り
冬が終わり、春の匂いが漂い始めても、浩一の生活は変わらなかった。
午前中に起きることはほとんどなくなり、布団から出るのは昼過ぎ。
パソコンを起動し、前夜のオンラインゲームのチャットログを読み返す。
時刻はいつの間にか夕方になり、窓の外は茜色に染まっている。
夜になると、画面の向こうの仲間たちが集まってくる。
「昨日のダンジョン、もう一回行こう」
「新しいイベント始まったぞ」
その誘いに応じて、浩一は深夜までキーボードを叩き続けた。
気づけば外は白んでいる。鳥のさえずりが聞こえる中、パソコンの電源を落とし、カーテンを閉め、布団に潜り込む。
母との会話は減った。
夕食の時間に起きてくることがあっても、「いただきます」と「ごちそうさま」だけで部屋に戻る。
母はときどき心配そうに覗きに来るが、「大丈夫」と短く答えると、それ以上は何も言わなかった。
その優しさに甘えるうちに、会話すら面倒になっていった。
昼夜が逆転してからは、外の出来事が遠い世界のニュースのように感じられた。
春の桜も、夏の蝉も、窓を閉め切った部屋の中からはただの映像でしかない。
四角い画面と蛍光灯の白い光、それが浩一にとっての「季節」だった。
ある日、午前四時にふと立ち上がり、窓を開けて外を見た。
街灯の下に、新聞配達のバイクが走り去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、浩一は思った。
――俺の時間は、みんなと逆なんだ。
そう気づいたとき、もう戻せない何かが、自分の中で固まっていた。




