第2部-第13章 地元の同級生との再会
正月が過ぎたある日、母から醤油を買ってきてほしいと頼まれた。
外に出るのは久しぶりだ。冬の空気は刺すように冷たく、吐く息が白く長く伸びる。
近所のスーパーに向かう途中、駅前の商店街を抜けると、見覚えのある背中が目に入った。
「……田島?」
振り向いたのは、高校時代の同級生、森田だった。
当時はサッカー部のエースで、明るく、誰からも好かれていた男だ。
「久しぶりだな! 元気してた?」
「ああ……まあ」
久しぶりの会話に、口の中が乾く。
森田はスーツ姿で、肩にはビジネスバッグ。
「今、地元の銀行で働いてるんだ。もう五年目かな」
「そうなんだ」
笑顔でそう答えたが、胸の奥がざわつく。自分はこの五年間で何をしてきただろう。
「田島は今、何してんの?」
一瞬、答えが喉に詰まった。
「……まあ、家にいるよ」
「そっか……元気ならいいけど」
森田はそれ以上は聞かなかった。だが、その笑顔の奥にあるわずかな戸惑いを、浩一は見逃さなかった。
「じゃ、またな」
森田は人混みに紛れ、足早に去っていった。
背中が小さくなっていくのを見送りながら、胸の中に重い塊が沈んでいく。
スーパーで醤油を買い、帰り道、ショーウィンドウに映る自分の姿を見た。
伸びた髪、無精ひげ、よれたジャンパー。森田の姿と並べれば、その違いは一目瞭然だった。
家に帰ると、母が笑顔で迎えた。
「寒かったでしょ。お茶入れるね」
温かい湯呑を手にしながら、浩一は曖昧に笑った。
けれど、胸の奥では別の声が響いていた。
――俺だけ、止まってる。




