第7部-第112章 初めての役員会
町内会館の一室に足を踏み入れた瞬間、浩一の胸は高鳴っていた。
畳の上に並べられた長机。その周囲に既に役員たちが腰を下ろし、書類を手に話をしている。
「浩一さん、こっちどうぞ」
西村に促され、空いていた席に座る。
かつてなら、こうした場には絶対に近づかなかった。
けれど今は違う。
――俺は“役員の一人”として、この場にいる。
会議が始まった。
議題は来月の地域清掃や、防災倉庫の整理など。
ベテランたちが意見を交わす中、浩一はただ耳を傾けていた。
だが途中で、西村がふと口を開いた。
「浩一さん、何か気づいたことがあればぜひ」
突然の指名に、場の視線が一斉に集まる。
心臓が早鐘を打つ。
――言えるのか、俺に?
頭に浮かんだのは、防災訓練で見た子どもの姿だった。
「……あの、避難訓練のとき、小さな子が迷子になって泣いていました。ああいう時に備えて、子どもだけをまとめる係を作ったほうがいいんじゃないかと……」
言い終えた瞬間、沈黙が流れた。
だが次の瞬間、年配の女性が頷いた。
「確かにそうね。私たち大人は大人で手いっぱいになるから」
「いい意見だ。来月の訓練から取り入れよう」
賛同の声が広がっていく。
浩一の胸は熱くなった。
――俺の言葉が、みんなに受け入れられた。
会議が終わり、帰り際に西村が肩を叩いた。
「浩一さん、いい意見でしたよ。やはりあなたに来てもらって正解でした」
外に出ると、夜風が頬を撫でた。
五十年間、何もできないと信じ込んでいた自分が、今は人の役に立つ意見を出している。
「俺……やっと、人の輪に入れたんだな」
浩一は小さく呟きながら、暗い帰り道を胸を張って歩いた。




