第7部-第111章 役員への誘い
ある日の夕方、浩一は施設の片付けを終えて外に出た。
秋の風が心地よく頬を撫でる。
そこへ町内会のリーダー、西村が声をかけてきた。
「浩一さん、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう」
西村は少し真剣な表情で言った。
「実は、来期の町内会で役員が足りないんです。これまでの活動を見て、ぜひ浩一さんにも入っていただけないかと……」
言葉を聞いた瞬間、浩一は目を見開いた。
――役員? 自分が?
五十年間、社会から距離を置いてきた男に、地域の中心に加わってほしいと言われている。
心臓が強く脈打った。
「……俺なんかに、務まるでしょうか」
思わず弱気な声が漏れる。
しかし西村は笑って首を振った。
「務まるかどうかじゃありません。浩一さんが“やろう”と思ってくれるかどうかですよ。子どもたちや住民の信頼は、もう十分に得ています」
その言葉に胸の奥が熱くなった。
――俺を、信頼してくれている?
沈黙の後、浩一は深く息を吸い込み、答えた。
「……わかりました。俺でよければ、やらせてください」
西村は満足そうに頷いた。
「ありがとうございます。これで町内会も心強くなりますよ」
その帰り道、浩一はふと空を見上げた。
五十歳の自分が、地域の役員になる――かつて想像すらできなかった未来が、今、目の前に広がっている。
「俺は……本当に変わり始めてるんだな」
そう呟いた声は、夜空に静かに溶けていった。




