第7部-第110章 子どもたちのありがとう
防災訓練から数日後。
施設での仕事を終えて帰ろうとした浩一の背後から、小さな声が響いた。
「浩一さーん!」
振り返ると、数人の子どもたちが駆け寄ってくる。
防災訓練で一緒だった子たちだ。
その中の一人、泣き出したあの男の子が前に出てきて、浩一を見上げた。
「この前は、ありがとう。こわかったけど、浩一さんが手をにぎってくれたから、大丈夫だった」
浩一は思わず言葉を失った。
震える小さな声に、自分の存在が確かに誰かを救ったのだと実感する。
「そ、そうか……俺も君が頑張ってくれて嬉しかったよ」
すると、周りの子どもたちが口々に言った。
「焼きそばも美味しかった!」
「また一緒に遊ぼうね!」
「浩一さんって、やさしいんだね!」
子どもたちの笑顔に囲まれて、浩一の胸は熱くなった。
これまでの五十年間、誰かに感謝されることなどほとんどなかった。
自分の存在が、こんなにもまっすぐに肯定されるなんて――。
「……ありがとう。俺も、みんなに会えてよかったよ」
その声は少し震えていたが、確かな想いが込められていた。
子どもたちが去ったあと、夕暮れの風に吹かれながら浩一は立ち尽くしていた。
――俺はもう、“ただのニート”じゃない。
そう胸の奥で呟いた時、五十歳にして初めて「未来」を信じられる気がした。




