第6部-第104章 母への報告と新しい目標
夏祭りの夜が終わり、片づけを終えて帰宅したのは日付が変わるころだった。
玄関を開けると、母が電気をつけたまま待っていた。
「おかえり。お疲れさま」
その優しい声に、浩一の胸がじんと熱くなる。
ちゃぶ台に座り、麦茶を一気に飲み干すと、浩一はぽつぽつと話し始めた。
「……今日、同級生に会ったんだ。昔の俺をバカにされた。でも、みんなの前で、逃げないって言えた」
母は黙って頷き、目を細めた。
「そうかい。言えたんだね」
「うん。怖かったけど……言ってよかった。子どもたちも応援してくれて、山田は黙って帰った」
その場面を思い返すと、胸の奥が再び熱くなる。
母はゆっくりとお茶をすすりながら言った。
「浩一。あんたはやっと、自分を許せたんだね」
その言葉に、心の奥が静かに震えた。
五十年近く背負ってきた重さが、ようやく軽くなった気がした。
「母さん……俺、次はもっと役に立ちたい。施設や祭りだけじゃなくて、他の場所でも」
「それでいい。やっと“これから”を考えられるようになったんだね」
母の微笑みを見て、浩一は強く頷いた。
――もう、ただ「生き残る」ためじゃない。
これからは「誰かの役に立つ」ために生きるんだ。
その夜、布団に入った浩一の胸には、不思議な高揚感が広がっていた。
五十歳にして、初めて未来が「白紙」ではなく「可能性」として見えていた。




