第6部-第102章 過去を知る人との再会
夏祭りの準備は、思った以上に忙しかった。
やぐらの組み立て、提灯の取り付け、出店の配置――自治会の人々は慣れた手つきで動いていたが、浩一は不器用に汗を流しながらついていった。
「そこ、もう少し右寄せて!」
若い世代に混じって声をかけられると、戸惑いながらも「はい!」と返す。
周囲に受け入れられている感覚が、少しずつ心を軽くしていった。
だが、その日の夕方。
差し入れの麦茶を飲んでいると、不意に背後から声がした。
「……おい、浩一じゃないか?」
振り向いた瞬間、心臓が強く跳ねた。
そこに立っていたのは、中学時代の同級生――山田だった。
顔は年相応に老けていたが、目つきは当時のままだった。
「久しぶりだな。お前、まだこの街にいたのかよ」
山田の声には皮肉が混じっていた。
周囲の人々が「同級生なの?」と興味深そうに見ている。
浩一は喉が乾いて声が出なかった。
山田は続けた。
「学生のころから冴えなくて、結局、五十にもなって働いてないって聞いてたけど……。今さらボランティアか?」
その言葉は、胸を鋭く突いた。
周囲の空気がわずかにざわつく。
自分の過去が、こうして公の場に晒されてしまうのか。
だが、そのとき。
「いいじゃないか。今こうして手伝ってくれてるんだから」
と、自治会の年配の男性が口を挟んだ。
「昔どうだったかなんて関係ないよ。今を見てやろうじゃないか」
その言葉に救われるように、浩一は深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
胸の奥に渦巻く羞恥と悔しさ。
だが同時に、「今を生きている自分」を信じてくれる人がいることに、熱いものが込み上げてきた。
――逃げるな。ここで踏みとどまらなければ、また過去に飲み込まれる。
浩一は拳を握りしめ、山田の視線を真正面から受け止めた。




