第6部-第101章 新たな声かけ
地域交流イベントから数日後。
施設の玄関前で片づけをしていると、一人の女性が声をかけてきた。
「すみません、浩一さんですよね?」
振り向くと、見覚えのない中年の女性が立っていた。
名乗ったのは、近くの自治会の役員だという。
「この間のイベント、拝見しました。子どもたちが本当に楽しそうで……実は今度、地域の夏祭りを手伝ってくれる人を探していまして」
思いがけない誘いに、浩一は戸惑った。
「お、俺が……ですか?」
「はい。人手不足で困っているんです。でも、あんなふうに子どもたちをまとめられる人、なかなかいませんから」
胸の奥で、驚きと不安が交錯する。
五十年間、誰からも必要とされなかった自分が、今こうして頼まれている。
――俺が、地域の夏祭りを……。
その夜、母に相談すると、母は穏やかに笑った。
「行ってきなさい。ここで逃げたら、また昔に戻っちゃうよ」
「でも俺……人前に出るのはまだ怖いんだ」
「怖いなら、それでいい。怖くても、一歩踏み出すのが“生きる”ってことだから」
母の言葉が胸に響いた。
翌日、浩一は自治会役員に返事をした。
「……不器用ですけど、やらせてください」
その瞬間、相手の顔がぱっと明るくなった。
そして浩一の心にも、小さな火が灯る。
――五十歳にして、地域の一員として初めて求められた。
それは「ニート」の殻を破り、社会に歩み出す新たな扉だった。




