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感情はバグか  作者: zinbei
4/5

地球が終わるその前に

月曜日の朝、すべてが始まった。


「おい、今日さ、世界が終わるんだってよ」


ジムの休憩室で、いつものようにタバコを吸いながらマイクが言った。

その一言で、いつもの退屈な仕事の日が一変した。


「何言ってんだ、お前?」

「いや、マジで。ネットで見たんだよ。科学者が言ってるんだって。地球が終わるんだってさ。」


「またまた、またそんなデマかよ。」

「でもさ、最近、天気おかしいし、地震も増えてるし、これから何か起きるんじゃないかって、ちょっと

 本気で思ってんだよな。」


俺の名前はタカシ。

仕事はマーケティング担当。

普段は地味な仕事をこなしているだけだ。

何も変わらない日常。

それが、急に「世界が終わる」という話題で変わりそうになった。

正直言って、ちょっとだけ面白いと感じた。


「地球が終わるわけないだろ。映画じゃあるまいし」

「でもさ、万が一、あったらどうする?」


「どうすんだって?普段通りに仕事して、帰って寝るだけだろ」


笑いながら言ったが、俺は内心少しだけ気になった。

最近、確かに天気も変だし、ニュースでは奇妙な出来事が増えている。

これが単なる偶然ならいいが、もし本当に何かが起きるんだったら、それにどう対処すればいいのか。


その午後、オフィスに戻ると、いつも通りの静けさの中、スタッフ全員がスマートフォンを見つめて、ざわざわしていた。


「どうした?」

「ほら、見てよ!」

「何だよ、これ…?」


スクリーンに映し出されたのは、ある科学者のインタビューだった。

その科学者は、カメラに向かってこう言っていた。


「私たちは予測通り、地球に接近している未知の天体が、今週中に衝突する可能性がある。しかし、正確 

 な位置や時間はまだわかりません」


「はぁ?」


みんなが声を揃えた。


これがニュースの内容だと。

まさか、こんなことが本当に起こるなんて。

しかも、誰もが知らされていなかった。

地球が終わる時、科学者たちは「でも、まだわからない」と言うだけ。


「じゃあ、何する?」

「一緒にバーベキューでもやるか?」

誰かが冗談を言ったが、その言葉が妙に現実的に感じてきた。


その後の数時間、オフィスの空気はどこか浮ついていた。

みんなは普段通り仕事をしているようで、でもどこか不安そうだった。

俺もどうしていいのかわからなかった。

今まで通りに仕事をして、平穏無事に過ごすべきか、それとも何か準備をしておいた方がいいのか。


夕方、会社を出て、いつものように街を歩いていた。

考え事をしたくなかったので、何も考えずに歩いていた。

空は普段よりも少し暗く、雷が遠くで鳴っている。


そして、ふと立ち寄ったカフェで、意外な人物と再会した。


「タカシ!」


声をかけてきたのは、大学時代の友人、ヒロシだった。


「お前も聞いたか?世界が終わるって」


ヒロシは笑っていたが、その顔にはどこか余裕が感じられなかった。


「で、何するんだ?俺、これから世界一周旅行に行こうと思ってるんだ」

「は?世界一周?終末が近いのに?」


「いや、だからこそだよ。最後の最後に世界を見てこようかなって。もし本当に終わるなら、後悔したく

 ないだろ?」


ヒロシはいつもそんな感じだ。

何か大きなことが起きそうでも、どこか他人事のように振舞う。


「そんなの、信じるのか?」

「信じるも信じないも関係ないよ。世界が終わるかどうかなんて、もうどうでもいいんだ。楽しんだ者が 

 勝ちだろ?」


その言葉に、なんとなく納得してしまった。

俺もヒロシのように、何もかも忘れて楽しむべきなんじゃないかと思えてきた。


「で、旅行行くなら、俺も一緒に行くかな。」

「お、いいじゃん!一緒に行こう!」


その時、ヒロシが目を輝かせて言った。


「実はさ、『終末パーティー』って知ってる?」

「終末パーティー?何それ」

「地球が終わるって騒がれてるから、みんな集まってパーティーするんだよ。俺、明後日行くんだ」


「お前、そんなパーティー信じてるのか?」

「信じる必要はないんだよ。ただ、楽しめばいいんだ。」


結局、俺はヒロシに誘われるまま、「終末パーティー」に参加することに決めた。

世界が本当に終わるわけないけれど、もしその前に何か楽しいことがあるなら、それを見逃す手はない。


その夜、パーティーに行ってみると、集まったのは奇妙な連中ばかりだった。

音楽が鳴り、酒が提供され、みんなが笑い合っていた。

ただ、どこか一歩引いた感じで、皆が何かを探しているような空気が漂っていた。

ヒロシがニヤリと笑いながら言った。


「どうだ?これが『終末パーティー』だよ。結局、楽しんだ者が勝ちだろ?」


俺は一瞬、迷ったが、結局その言葉に頷いた。

その瞬間、スクリーンに映し出されたのは――ニュース速報だった。


「速報です。地球に接近する天体の衝突の危機が一時的に回避されたことが確認されました。予想よりも

 影響は小さく、衝突の可能性は急激に低下しています。」


会場が静まり返った。

みんなが顔を見合わせ、次の瞬間、爆笑が起こった。

結局、何も起こらなかった。天体も衝突せず、世界はそのまま続いた。


「おい、タカシ。どうだ?俺たち、無駄にパーティーしたわけじゃなかっただろ?」


ヒロシが肩を叩いてきた。

俺はちょっとだけ笑った。

結局、世界は終わらなかった。

ただ、どこかで始まりを感じるだけだった。


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