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槍の又左衛門 前田利家が貫いた乱世の幻影と能登の未来  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
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第3話:尾張のやんちゃ者

1540年代後半、那古野城


尾張の那古野城は、荒子城よりはマシだが、やっぱりでかくねえ。


石垣は少し高く、堀も深いけど、織田信秀の居城ってだけで威厳があるってわけじゃねえ。


俺、前田利家――まだ「犬千代」と呼ばれてる――は、その城の片隅で木の棒を手に持ってた。


1538年に生まれた俺は、この頃、13か14歳くらいだ。背もそこそこ伸びてきて、吉法師――織田信長――と遊んでた頃よりは力もついてきた。でも、四男坊で跡取りでもねえ俺は、相変わらずやんちゃなままだ。


「犬千代! また遊んでるのか!」


声が飛んできた。


織田家の家臣、平手政秀だ。


50歳くらいのジジイで、信秀の側近。真面目で厳しくて、吉法師の教育係でもある。


俺は信秀に小姓として召し出されてから、こいつの下で働いてる。


「遊んでねえよ。槍の練習してただけだ」


俺は木の棒を振り回して見せた。


地面に突き刺してた棒を抜いて、平手に向かって軽く突く真似をする。


平手が目を細めて、渋い顔をする。


「槍? その棒っきれでか? お前、小姓ならもっとマシな仕事しろ。信秀様の馬の世話がまだ終わってねえぞ」


「馬ならさっき水飲ませたよ。槍の練習くらいさせてくれよ」


俺がムッとすると、平手がため息をついた。


「やんちゃも大概にしろ。お前、吉法師様に似てきたな。困ったもんだ」


平手が背を向けて去っていく。


俺はニヤッと笑って、木の棒を地面に突き刺した。吉法師に似てるってのは、褒め言葉だろ。


織田家に仕えてから、俺の毎日は変わった。


荒子城を出て、信秀の小姓として那古野城に住み込んでる。


仕事は馬の世話や信秀の身の回りの雑用だ。


父ちゃんは「槍の腕を磨け」と送り出したけど、まだ本物の槍は持たせてくれねえ。


母ちゃんには「生きて帰る」って約束したから、無茶はしねえつもりだ。


でも、吉法師と一緒にいると、どうしても無茶したくなる。


吉法師は16か17歳くらいだ。


信秀の嫡男で、俺より4つ年上。


相変わらず背は低めで、髪はボサボサ、着物は汚れてる。


でも、あの目はますますギラギラしてる。


あいつと出会ってから、俺は槍に夢中になった。


木の棒で勝負して、負けて、笑い合ったあの日が、俺の胸に残ってる。



吉法師の奇行


その日の昼過ぎ、城の中が騒がしくなった。


「吉法師様がまたやったぞ!」


家臣たちが慌てて走り回ってる。


俺は馬小屋から顔を出して、様子を覗った。


すると、吉法師が庭ででかいカブトムシを手に持って、ニヤニヤしてるのが見えた。


「お前ら、これ見ろ! すげえデカいだろ!」


吉法師が叫ぶ。家臣たちが困惑した顔で囲んでる。平手が駆けつけて、怒鳴った。


「吉法師様! そんな虫で遊んでる場合じゃありません! 信秀様がお呼びです!」


「うるせえよ、ジジイ! カブトムシの方が大事だ!」


吉法師がカブトムシを平手の顔に近づける。


平手が顔を真っ赤にして後ずさる。俺は笑いを堪えきれなくて、馬小屋から飛び出した。


「お前、ほんと馬鹿だな!」


俺が笑うと、吉法師が俺を見てニヤッと笑った。


「犬千代! お前も来いよ! こいつと勝負しようぜ!」


「勝負? カブトムシでか?」


「当たり前だろ! 俺の虫が一番強えって証明してやる!」


吉法師がカブトムシを地面に置く。俺は木の棒を手に持って、ニヤけた。


「なら、俺の棒でぶっ倒してやるよ」


「やってみろ、バカ犬!」


俺たちはカブトムシを地面で戦わせて、笑い転げてた。


平手が呆れて見てる中、吉法師の虫が俺の棒に負けて、ひっくり返った。


「くそっ! 犬千代、お前ずるいぞ!」


「ずるくねえよ。お前の虫が弱いだけだ!」


俺たちが笑い合ってると、信秀の声が響いた。


「吉法師! 犬千代! いつまで遊んでるんだ!」


俺たちはビクッとして、顔を見合わせた。



信秀の試練


信秀はでかい男だ。


目が鋭くて、笑うと牙でも生えてそう。


吉法師の父ちゃんだけあって、威圧感が半端ねえ。


「犬千代、お前も小姓なら仕事しろ。吉法師を甘やかすな」


信秀が俺を睨む。俺は胸を張った。


「甘やかしてねえよ。槍の腕なら俺だって負けねえ」


信秀が一瞬目を細めて、ニヤッと笑った。


「へえ、槍か。なら、試してやる。お前、明日、俺の供で出る。近隣の盗賊がうるせえから、叩き潰してこい」


「盗賊?」


俺が聞き返すと、吉法師が目を輝かせた。


「面白えじゃん! 俺も行くぞ、父ちゃん!」


「黙れ、吉法師。お前は城にいろ。犬千代だけでいい」


信秀が吉法師を一喝する。吉法師がムッとした顔で黙った。俺は信秀を見た。


「盗賊なら俺一人でいいよ。槍でぶっ倒してやる」


信秀が頷いて、笑った。


「よし。失敗したら罰だ。覚悟しろ」


信秀が去っていく。俺は吉法師を見た。


「お前、盗賊って何だよ?」


「知らねえよ。敵だろ。槍で突けばいいさ」


吉法師が笑う。俺も笑ったけど、心のどこかで緊張してた。



夜の影


その夜、俺は寝床で目を閉じた。


明日が初の試練だ。盗賊なんて知らねえけど、槍でぶっ倒せばいい。母ちゃんとの約束があるから、死なねえように気をつける。そう思ってた。


でも、夢を見た。


暗い森だ。俺が木の棒を持って立ってる。


目の前に、黒い影。兜をかぶった武将が、俺と同じ棒を持ってる。


顔は見えねえ。


兜の下は闇しかねえ。


「お前は誰だ?」


俺が聞くと、そいつが低い声で答えた。


「お前がこれから殺すものだ」


目が覚めた時、心臓がバクバクしてた。


汗で全身が濡れてた。夢だった。


でも、妙にリアルだった。


隣で寝てる吉法師の寝息が、静寂の中で響いてた。


俺は布団の中で拳を握った。あの影が何だか分からねえ。でも、俺は負けねえ。



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