第9話:信長との亀裂(続き) 第3章:自由の槍
1557年、尾張の田舎
尾張の田舎は、静かだ。
織田信長と決別し、那古野城を出た俺、前田利家は、小さな村の家で槍を手に持ってた。19か20歳の俺は、赤母衣衆の頭として数々の戦を戦い抜き、「槍の又左衛門」の名を尾張中に響かせたが、今は信長の非情さに耐えきれず、織田家を離れた。背も高く、力もついて、まつとの結婚が俺を支えてる。
「利家! また槍か!」
声が飛んできた。まつだ。18か19歳のまつは、小柄だけど、目は澄んでて、俺に近づいてきた。俺は槍を地面に突き刺して、ニヤッと笑った。
「当たり前だ。槍がなけりゃ、俺じゃねえよ。お前、何だ?」
まつが笑って、手に持った籠を見せた。
「畑の野菜だよ。お前、信長様から離れて、落ち着いたかと思ったけど、やっぱり槍だね」
「落ち着くかよ。槍が俺の命だ。でも、まつとこうやって暮らすのも悪くねえな」
俺が笑うと、まつが目を細めて頷いた。
信長と喧嘩して織田家を出た後、俺はまつと一緒に尾張の田舎に引っ込んだ。信長の命令で裏切り者の村を焼き払えと言われたが、女や子供まで殺す非情さに俺は耐えきれなかった。信長とは縁を切ったが、槍を手に持つ気持ちは変わらねえ。母ちゃんとの「生きて帰る」約束と、まつの「私を置いて死なないで」が、俺の胸に響いてる。
まつとの新生活
その日の昼過ぎ、俺はまつと一緒に飯を食った。
小さな卓に野菜と飯が並び、まつが俺の隣で笑ってる。
「利家、こんな暮らし、どう?」
まつが目を細めて聞く。俺は飯を口に運んで、ニヤッと笑った。
「悪くねえよ。戦場じゃねえけど、お前とこうやってると落ち着く」
まつがクスクス笑って、俺の手を取った。
「私もよ。お前が信長様と喧嘩して出てくれて、ほっとした。お前が戦場で死ぬの、怖かったから」
俺はまつの手を握り返して、答えた。
「俺、死なねえよ。お前との約束あるからな。信長の非情さに耐えきれなかっただけだ」
まつが笑って、小さな布を差し出した。
「なら、これ見てよ。私、お前が帰ってきてから、また作ったの」
俺は布を見ると、まつの刺繍した赤母衣の模様がさらに細かく仕上がってた。俺はニヤけた。
「まつ、お前、ほんと上手いな。赤母衣衆の印がこんなに立派かよ」
「夫婦だもの。お前が槍を手に持つなら、私も何かしたくて。これ、持っててよ」
俺は布を手に持って、まつの頭を撫でた。
「お前、ほんと頼もしいな。これ持ってたら、槍振るのも楽しくなるよ」
まつの新たな絆が、俺の心を温めた。
信長からの使者
その夕方、家の外で足音がした。
俺は槍を手に持って、出てみると、佐々木藤兵衛が立ってた。
「利家、久しぶりだな」
藤兵衛が渋い顔で言う。俺は槍を地面に突いて、ニヤッと笑った。
「お前か。信長の使いか?」
藤兵衛が頷いて、言った。
「信長様が呼んでる。お前が出てった後、尾張がざわついてる。戻ってこいって」
俺はムッとして、答えた。
「戻るかよ。信長の非情さに耐えきれねえ。俺はまつとここで暮らす」
藤兵衛がため息をついて、続けた。
「信長様、怒ってるけど、お前の槍が必要だ。お前がいねえと、赤母衣衆が締まらねえ」
「信長が必要でも、俺は要らねえよ。お前、帰れ」
俺が槍を手に持つと、藤兵衛が首を振って去った。信長との縁は切れたはずなのに、俺の胸がざわついた。
影の新たな問い
その夜、まつと寝た。
まつが隣で寝息を立ててる。俺は藤兵衛の言葉で眠れず、やっと眠りに落ちた。
でも、夢を見た。
暗い森だ。俺が槍を持って立ってる。目の前に、黒い影。兜をかぶった武将が、俺と同じ槍を持ってる。顔は見えねえ。兜の下は闇しかねえ。
「お前は誰だ?」
俺が聞くと、そいつが低い声で答えた。
「お前が貫いたものだ。お前が守るものだ。絆は試される。貫く先に何を見る?」
今回は、影の声に信長の怒りとまつの優しさが混じり、影が俺の槍を指した。まつの刺繍した赤母衣が揺れ、影が一瞬、信長の姿に変わった気がした。
目が覚めた時、心臓がバクバクしてた。汗で全身が濡れてた。まつの寝息が、静寂の中で響いてた。
俺は拳を握った。あの影が何だか分からねえ。でも、信長と決別し、まつと新たな道を選んだ俺は、試練が来ても負けねえ。槍とまつを手に持つ。それが俺の道だ。




