第8話:赤母衣衆(続き) 第5章:美濃の戦場
1556年、那古野城から美濃へ
尾張の那古野城は、朝もやに包まれてる。
織田信長が美濃の斎藤龍興を討つべく軍を動かし、俺、前田利家は、赤母衣衆の頭として先鋒を任された。18か19歳の俺は、槍を手に持って、馬に跨がってた。背も高く、力もついて、「槍の又左衛門」の名が尾張中に響いてる。まつとの結婚で守るものが増えた俺は、信長の天下への道を槍で切り開く覚悟だ。
「利家! 準備できたか!」
声が飛んできた。信長だ。21か22歳のあいつは、馬上でニヤニヤしてる。背は低めだけど、目がギラギラしてて、俺に近づいてきた。
「当たり前だ。槍があれば、俺はいつでも行ける。お前、美濃で何企んでんだ?」
俺がニヤッと笑うと、信長がニヤリと笑った。
「斎藤龍興をぶっ潰す。美濃を取って、天下への第一歩だ。お前、先鋒で突っ込め」
「面白えじゃん。槍の又左衛門が、美濃を貫くぜ」
信長が目を輝かせて、俺の肩を叩いた。
「よし! 赤母衣衆を率いて、斎藤の首を取れ。俺の奇策で勝つ!」
「当たり前だ。俺、信長の為に突くぜ」
俺が笑うと、信長が笑い転げた。桶狭間の絆が、美濃でも試される。
美濃への道は険しい。斎藤龍興は今川義元ほどの大軍じゃねえけど、地形を活かした守りが固い。信長は奇策で勝つつもりで、俺は赤母衣衆として先陣を切る。母ちゃんとの「生きて帰る」約束と、まつの「私を置いて死なないで」が、俺の胸に響いてる。
まつとの別れ
その朝、俺はまつに見送られた。
城の門前で、まつが静かに立ってた。17か18歳のまつは、小柄だけど、目は澄んでて、俺をじっと見てる。
「利家、気をつけてね」
まつが静かに言う。俺は馬から降りて、まつに近づいた。
「当たり前だ。俺、死なねえよ。お前が待ってるからな」
俺が笑うと、まつが小さく笑った。でも、目が少し潤んでる。
「信長様の奇策が勝つのは分かってる。でも、お前、先鋒で突っ込むんでしょ? 怖いよ」
まつが俺の手を取る。俺はまつの手を握り返して、ニヤッと笑った。
「怖くねえよ。槍があれば、俺は負けねえ。まつが傷薬くれたから、平気だ」
まつが涙をこらえて、小さな袋を差し出した。
「なら、これ持ってて。干し柿と傷薬だよ。お前、無茶するから」
俺は袋を受け取って、ニヤけた。
「またか。ありがとよ、まつ。お前、ほんと頼もしいな」
まつが笑って、俺の胸に顔を寄せた。
「生きて帰ってよ。それが約束だよ」
「当たり前だ。俺、まつを守る為に戦うんだ」
俺はまつの頭を撫でて、馬に跨がった。まつが見送る中、俺は信長の軍と共に出発した。
美濃戦の開始
美濃の国境に着いたのは、数日後だ。
斎藤龍興の軍が、川沿いの要塞に陣を張ってる。信長は奇策で夜襲を仕掛けるつもりで、俺は赤母衣衆を率いて先陣を切った。
「利家! 突っ込め!」
信長が叫ぶ。俺は赤い母衣を背負い、槍を手に持って、馬を駆けた。
「うおおおお!」
夜の闇の中、俺は敵陣に突っ込んだ。斎藤の足軽が俺に襲いかかってきた。俺は槍を振って、突いて、ぶっ倒した。血が飛び散り、泥に混じる。桶狭間より狭い戦場に、俺の心臓がバクバクした。
「利家、左だ!」
藤兵衛が叫ぶ。俺は左に槍を振って、敵を突き刺した。赤母衣衆が俺に続いて突っ込み、斎藤の軍が混乱し始めた。信長の奇襲が効いて、敵の守りが崩れる。俺は槍を振るい続け、斎藤の旗を目指した。
戦いは夜明けまで続いた。斎藤龍興は逃げ、信長が勝ちを収めた。俺は血と泥にまみれて、槍を握ってた。
影の問い
その夜、野営地で寝た。
戦の疲れで、俺はすぐ眠りに落ちた。
でも、夢を見た。
暗い森だ。俺が槍を持って立ってる。目の前に、黒い影。兜をかぶった武将が、俺と同じ槍を持ってる。顔は見えねえ。兜の下は闇しかねえ。
「お前は誰だ?」
俺が聞くと、そいつが低い声で答えた。
「お前が貫いたものだ。お前が守るものだ。絆は試される。何を貫く?」
目が覚めた時、心臓がバクバクしてた。汗で全身が濡れてた。藤兵衛の寝息が、静寂の中で響いてた。
俺は拳を握った。あの影が何だか分からねえ。でも、美濃で信長と勝ち、まつを想って戦った俺は、試練が来ても負けねえ。槍とまつを手に持つ。それが俺の答えだ。