第8話:赤母衣衆(続き) 第4章:美濃への道
第4章:美濃への道
1556年、那古野城
尾張の那古野城は、再び戦の気配に包まれてる。
桶狭間で今川義元を討ち取った織田信長は、次なる標的を美濃の斎藤龍興に定めた。俺、前田利家は、城の裏庭で槍を手に持ってた。18か19歳の俺は、赤母衣衆の頭として信長の先鋒を任され、「槍の又左衛門」の名が尾張中に広まった。背も高く、力もついて、まつとの結婚で俺の人生に新しい軸が加わってる。
「利家! また槍か!」
声が飛んできた。信長だ。21か22歳のあいつは、桶狭間の勝ちで勢いづいてる。背は低めだけど、目がギラギラしてて、俺に近づいてきた。
「当たり前だ。美濃に行くんだろ? 槍がなけりゃ、俺じゃねえよ」
俺がニヤッと笑うと、信長がニヤリと笑った。
「さすが利家だ。斎藤龍興をぶっ潰して、美濃を取る。俺の天下への道だ。お前、どう思う?」
「面白えじゃん。俺、槍で突っ込んでやるよ。赤母衣衆の頭としてな」
信長が目を輝かせて、俺の肩を叩いた。
「よし! お前、先鋒で斎藤の首を取れ。槍の又左衛門の名を美濃にも轟かせろ」
「当たり前だ。俺、信長の為に突くぜ」
俺が笑うと、信長が笑い転げた。桶狭間の戦いで深まった俺と信長の絆は、次の戦でも試される。
信長は尾張を固めた後、美濃を狙ってる。斎藤龍興は今川ほどの大軍じゃねえけど、美濃は地形が険しくて手強い。信長の奇策と俺の槍で、天下への道を切り開くつもりだ。俺はまつとの新婚生活を支えに、戦場で名を上げる覚悟だ。
まつの不安
その日の夕方、俺は部屋に戻った。
まつが小さな卓で飯を用意して待ってた。17か18歳のまつは、静かな強さがあって、俺の帰りをいつも笑顔で迎える。でも、今日は少し顔が曇ってる。
「利家、おかえり。今日も信長様と?」
まつが目を細めて聞く。俺は槍を壁に立てかけて、座った。
「当たり前だ。美濃に行くって。俺、赤母衣衆の頭として先鋒だ」
まつが一瞬目を伏せて、静かに言った。
「美濃か。また戦だね。お前、桶狭間で危なかったのに、また先陣?」
俺はニヤッと笑って、誤魔化した。
「危なくねえよ。槍があれば、俺は負けねえ。まつが傷薬くれたから、平気だったしな」
まつが小さく笑ったけど、すぐに真顔になった。
「笑い事じゃないよ。お前、毎回戦場で突っ込んで、私、怖いよ。夫婦になったばっかりなのに」
まつの声が震える。俺は一瞬言葉に詰まって、まつの手を取った。
「まつ、俺、死なねえよ。母ちゃんとの約束も、お前との約束もある。生きて帰るって決めてる」
まつが俺の手を握り返して、頷いた。
「なら、約束守ってよ。お前が戦うのはいいけど、私を置いて死なないで」
「当たり前だ。俺、まつを守る為に強くなるんだ」
俺が笑うと、まつが涙を拭いて笑った。
「なら、私も強くなる。お前を支える為に」
まつの言葉に、俺の胸が熱くなった。夫婦ってのは、こうやって支え合うもんなんだな。
美濃への準備
その夜、信長が家臣を集めた。
座敷に平手政秀、佐々木藤兵衛、俺が並び、信長の話を聞いてた。信長はニヤニヤしながら、でかい声で言った。
「お前ら、美濃の斎藤龍興をぶっ潰す。俺の奇策で勝つ。利家、どうだ?」
俺がニヤッと笑って、答えた。
「当たり前だ。お前と一緒なら、どんな敵でもぶっ倒す。槍で突っ込んでやるよ」
平手が渋い顔で口を開いた。
「信長様、美濃は険しい地です。慎重に――」
「うるせえよ、ジジイ! 俺のやり方で勝つ! 利家が先鋒だ。赤母衣衆で斎藤を蹴散らせ」
信長が俺を見る。俺は胸を張った。
「任せろ。槍の又左衛門が、美濃を貫くぜ」
藤兵衛が笑って、俺の肩を叩いた。
「利家、お前、まつに怒られるぞ。また先陣かよ」
「まつは分かってるよ。槍が俺の命だ」
俺が笑うと、信長が笑い転げた。美濃への戦が、俺の次の舞台だ。
影の示唆
その夜、部屋に戻って寝た。
まつが隣で寝息を立ててる。俺は美濃への興奮とまつの不安で、眠りに落ちた。
でも、夢を見た。
暗い森だ。俺が槍を持って立ってる。目の前に、黒い影。兜をかぶった武将が、俺と同じ槍を持ってる。顔は見えねえ。兜の下は闇しかねえ。
「お前は誰だ?」
俺が聞くと、そいつが低い声で答えた。
「お前が貫いたものだ。お前が守るものだ。絆は試される。次は何を守る?」
目が覚めた時、心臓がバクバクしてた。汗で全身が濡れてた。まつの寝息が、静寂の中で響いてた。
俺は拳を握った。あの影が何だか分からねえ。でも、桶狭間で信長と勝ち、まつと絆を深めた俺は、美濃でも負けねえ。槍とまつを手に持つ。それが俺の答えだ。