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槍の又左衛門 前田利家が貫いた乱世の幻影と能登の未来  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
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第8話:赤母衣衆(続き) 第3章:槍の日常

1556年、那古野城

尾張の那古野城は、静けさを取り戻しつつある。

桶狭間で今川義元を討ち取った勝利から数週間、織田信長の名が尾張中に響き、家臣たちも少し落ち着いてきた。俺、前田利家は、城の裏庭で槍を手に持ってた。18か19歳の俺は、赤母衣衆として初陣を飾り、「槍の又左衛門」の名を信長から貰った。背も高く、力もついて、まつとの結婚で俺の人生に新しい風が吹いてる。

「利家! また槍か!」

声が飛んできた。佐々木藤兵衛だ。30歳くらいのゴツい男で、桶狭間で一緒に戦った足軽頭。俺は槍を地面に突き刺して、ニヤッと笑った。

「当たり前だ。槍がなけりゃ、俺じゃねえよ。お前こそ、何だ?」

藤兵衛が笑って、近づいてきた。

「信長様が呼んでる。次の動きを話したいってさ。お前、赤母衣衆の頭なんだから、さっさと行け」

「次の動きか。面白えじゃん。すぐ行くよ」

俺が槍を肩に担ぐと、藤兵衛がニヤけた。

「まつに怒られるぞ。毎日槍ばっかりで」

「まつは分かってるよ。槍が俺の命だ」

俺が笑うと、藤兵衛が肩をすくめて去った。

桶狭間の勝ちで、信長は尾張を固めつつある。次は美濃の斎藤を狙うって噂だ。俺は赤母衣衆の頭として、信長の先鋒を任されてる。戦場で槍を振るのが俺の生き方だけど、まつとの新婚生活も大事だ。母ちゃんとの「生きて帰る」約束と、まつの「私も守るよ」が、俺の胸に響いてる。

まつの日常

その日の昼過ぎ、俺は部屋に戻った。

まつが小さな卓で飯を用意してた。17か18歳のまつは、静かな強さがあって、俺の帰りをいつも笑顔で迎える。今日は干し柿を手に持って、ニコニコしてる。

「利家、おかえり。今日も槍?」

まつが笑う。俺は槍を壁に立てかけて、座った。

「当たり前だ。信長が次を企んでる。俺、赤母衣衆の頭だからな」

まつが目を細めて、干し柿を俺に差し出した。

「そうね。お前、槍の又左衛門だもの。でも、ちょっと休んでよ。これ食べて」

俺は干し柿を受け取って、ニヤッと笑った。

「まつ、お前、ほんと気遣い上手だな。戦場でも助かったよ」

まつがクスクス笑って、俺の隣に座った。

「夫婦だもの。お前が戦うなら、私が支える。傷はどう?」

俺は腕を見せた。桶狭間でかすった傷が、まだ赤い。まつが傷薬を取り出して、丁寧に塗ってくれた。

「痛くねえよ。でも、まつがこうやってくれると、癒えるな」

「当たり前よ。お前、無茶するんだから、私がちゃんとしないと」

まつの手が温かくて、俺は目を閉じた。戦場とは違う、静かな時間が流れる。まつとの日常が、俺の心を落ち着かせる。

信長の新たな命

その夕方、信長の座敷に呼ばれた。

信長はニヤニヤしながら、俺を見てた。平手政秀と藤兵衛もいて、信長の次の企みを聞いてる。

「利家、桶狭間は見事だった。槍の又左衛門の名、尾張中に広まったぜ」

信長が笑う。俺はニヤッと笑って、答えた。

「お前の奇策がなけりゃ、俺の槍も活きねえよ。次は何だ?」

信長が目を輝かせて、言った。

「美濃だ。斎藤龍興が油断してる。俺、尾張を固めたら、次は美濃を取る。お前、赤母衣衆で先鋒やれ」

「面白えじゃん。槍で突っ込んでやるよ」

俺が胸を張ると、平手が渋い顔で口を開いた。

「信長様、美濃は今川より手強いです。慎重に――」

「うるせえよ、ジジイ! 俺のやり方で勝つ! 利家、どうだ?」

信長が俺を見る。俺はニヤけた。

「当たり前だ。お前と一緒なら、どんな敵でもぶっ倒す」

信長が笑い転げて、俺の肩を叩いた。

「よし! お前、まつと夫婦になって落ち着いたかと思ったが、やっぱりやんちゃだな」

「落ち着くかよ。槍持ってる方が俺らしいだろ」

俺と信長は笑い合った。美濃への戦が、俺の次の試練だ。

影の試練

その夜、部屋に戻って寝た。

まつが隣で寝息を立ててる。俺は戦の興奮とまつの温かさで、眠りに落ちた。

でも、夢を見た。

暗い森だ。俺が槍を持って立ってる。目の前に、黒い影。兜をかぶった武将が、俺と同じ槍を持ってる。顔は見えねえ。兜の下は闇しかねえ。

「お前は誰だ?」

俺が聞くと、そいつが低い声で答えた。

「お前が貫いたものだ。お前が守るものだ。絆は試される。次は何を貫く?」

目が覚めた時、心臓がバクバクしてた。汗で全身が濡れてた。まつの寝息が、静寂の中で響いてた。

俺は拳を握った。あの影が何だか分からねえ。でも、桶狭間で信長と勝ち、まつと絆を深めた俺は、次の戦でも負けねえ。槍とまつを手に持つ。それが俺の道だ。



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