第8話:赤母衣衆(続き) 第2章:戦後の絆
1556年、那古野城
尾張の那古野城は、勝利の余韻に沸いてる。
桶狭間で今川義元を討ち取った織田信長の名が、尾張中に響き渡った。俺、前田利家は、城の裏庭で槍を手に持ってた。18か19歳の俺は、赤母衣衆として初陣を飾り、「槍の又左衛門」の名を信長から貰った。背も高く、力もついて、まつとの結婚で守るものが増えた俺は、戦場での血と泥を洗い流して、新たな気持ちで槍を磨いてた。
「利家! また槍いじってるのか!」
声が飛んできた。信長だ。21か22歳のあいつは、桶狭間の勝ちで勢いづいてる。背は低めだけど、目がギラギラしてて、俺に近づいてきた。
「いじってねえよ。次の戦に備えてるだけだ。お前、今川倒してどうすんだ?」
俺がニヤッと笑うと、信長がニヤリと笑った。
「次は美濃だ。斎藤をぶっ潰して、天下への道を進む。お前、どう思う?」
「面白えじゃん。俺、槍で突っ込んでやるよ」
信長が目を輝かせて、俺の肩を叩いた。
「さすが利家だ。赤母衣衆の頭として、俺の先鋒を頼むぜ」
「当たり前だ。槍の又左衛門は、信長の為に突くぜ」
俺が笑うと、信長が笑い転げた。桶狭間の戦いで、俺と信長の絆は深まった。あいつの奇策と俺の槍が、尾張を勝ちに導いたんだ。
戦後、信長は家臣をまとめ直してる。平手政秀や佐々木藤兵衛は信長のやり方にまだ慣れねえみたいだけど、俺は信長を信じてる。あいつは天下を取る男だ。俺はそばで槍を振って、信長の夢を支えるつもりだ。
まつの試練
その日の夕方、俺は部屋に戻った。
まつが小さな卓で飯を用意して待ってた。17か18歳のまつは、静かな強さがあって、俺の帰りをいつも笑顔で迎える。でも、今日は様子が違った。
「利家、おかえり。無事でよかった」
まつが笑うけど、目が少し赤い。俺は槍を壁に立てかけて、座った。
「まつ、どうした? 何かあったのか?」
まつが一瞬目を伏せて、静かに言った。
「戦の話、城で聞いてた。お前が先陣で突っ込んだって。信長様の奇策で勝ったけど、危なかったんでしょ?」
俺はニヤッと笑って、誤魔化した。
「危なくねえよ。槍があれば、俺は負けねえ。まつが干し柿くれたから、腹減らなかったしな」
まつが小さく笑ったけど、すぐに真顔になった。
「笑い事じゃないよ。お前、死ぬかもしれないって思ったら、私、怖かった。夫婦になったばっかりなのに」
まつの声が震える。俺は一瞬言葉に詰まって、まつの手を取った。
「まつ、俺、死なねえよ。母ちゃんとの約束も、お前との約束もある。生きて帰るって決めてる」
まつが俺の手を握り返して、頷いた。
「なら、約束守ってよ。お前が戦うのはいいけど、私を置いて死なないで」
「当たり前だ。俺、まつを守る為に強くなるんだ」
俺が笑うと、まつが涙を拭いて笑った。
「なら、私も強くなる。お前を支える為に」
まつの言葉に、俺の胸が熱くなった。夫婦ってのは、こうやって支え合うもんなんだな。
信長との酒
その夜、信長が俺を呼んだ。
座敷で酒を飲んでる信長は、ニヤニヤしてた。俺はまつとの話を胸に、信長の隣に座った。
「利家、桶狭間で大活躍だったな。赤母衣衆の名、尾張中に広まったぜ」
信長が盃を差し出す。俺は受け取って、一気に飲んだ。
「当たり前だ。お前の奇策がなけりゃ、俺の槍も活きねえよ」
信長が笑い転げて、俺の肩を叩いた。
「さすが利家だ。お前、まつと夫婦になって落ち着いたかと思ったけど、やっぱりやんちゃだな」
「落ち着くかよ。槍持ってる方が俺らしいだろ」
俺が笑うと、信長が目を細めた。
「まつはどうだ? お前を支えてるか?」
「当たり前だ。あいつ、俺の傷拭いて、飯作って、戦場でも気遣ってくれる。最高の嫁だよ」
信長がニヤッと笑った。
「よし。なら、お前は俺の槍、まつはお前の盾だ。天下取るまで、二人で頑張れ」
「当たり前だ。俺、信長とまつと一緒に天下行くぜ」
俺と信長は盃を合わせて笑った。酒の味が、桶狭間の血と泥を洗い流してくれた。
影の問い
その夜、部屋に戻って寝た。
まつが隣で寝息を立ててる。俺は戦の疲れと酒で、すぐ眠りに落ちた。
でも、夢を見た。
暗い森だ。俺が槍を持って立ってる。目の前に、黒い影。兜をかぶった武将が、俺と同じ槍を持ってる。顔は見えねえ。兜の下は闇しかねえ。
「お前は誰だ?」
俺が聞くと、そいつが低い声で答えた。
「お前が貫いたものだ。お前が守るものだ。絆は試される。何を選ぶ?」
目が覚めた時、心臓がバクバクしてた。汗で全身が濡れてた。まつの寝息が、静寂の中で響いてた。
俺は拳を握った。あの影が何だか分からねえ。でも、桶狭間で信長と勝ち、まつと絆を深めた俺は、試練が来ても負けねえ。槍とまつを手に持つ。それが俺の答えだ。




