第8話:赤母衣衆 第1章:桶狭間の刃
1556年、那古野城
尾張の那古野城は、戦の匂いで重い。
織田信長が今川義元との戦を決意して、城中が慌ただしく動き回ってる。俺、前田利家――もう「犬千代」とはあまり呼ばれねえ――は、城の裏庭で槍を手に持ってた。1538年に生まれた俺は、この頃、18か19歳だ。背も高くなり、力もついて、まつと夫婦になってから、俺の毎日は変わった。槍の腕は織田家で評判になり、信長の信頼も厚い。
「利家! また槍磨いてるのか!」
声が飛んできた。信長だ。21か22歳くらいのあいつは、背は低めだけど、目がギラギラしてて、威圧感が半端ねえ。俺は槍を地面に突き刺して、ニヤッと笑った。
「磨いてねえよ。戦の準備だ。お前、今川とやる気満々じゃねえか」
信長がニヤリと笑って、近づいてきた。
「当たり前だ。今川義元が桶狭間で軍を動かしてる。俺、ぶっ潰して天下への第一歩にする。お前、どう思う?」
「面白えじゃん。俺、槍で突っ込んでやるよ」
俺が笑うと、信長が目を輝かせた。
「さすが利家だ。よし、お前は赤母衣衆だ。先陣で今川をぶち抜け」
「赤母衣衆?」
俺が聞き返すと、信長がニヤッと笑った。
「俺の精鋭だ。赤い母衣を背負って、敵を蹴散らせ。槍の利家にぴったりだろ」
俺はニヤけて、槍を手に持った。
「当たり前だ。俺、槍の又左衛門になるぜ」
信長が家督を継いでから、尾張は戦の準備に追われてる。今川義元が大軍を率いて尾張に迫り、信長は奇策で迎え撃つつもりだ。俺はまつと結婚して、守るものが増えた。母ちゃんとの「生きて帰る」約束と、まつの「私も守るよ」が、俺の胸に響いてる。
まつの支え
その日の夕方、俺は部屋に戻った。
まつが小さな卓で飯を用意して待ってた。17か18歳のまつは、静かな強さがあって、俺を落ち着かせる。
「利家、遅かったね。信長様と何かあったの?」
まつが目を細めて聞く。俺は槍を壁に立てかけて、座った。
「今川と戦だ。桶狭間でやるって。俺、赤母衣衆に選ばれた」
まつが一瞬目を丸くして、静かに頷いた。
「赤母衣衆か。すごいね。でも、危なくない?」
「危ねえよ。でも、俺、槍で突っ込む。信長と一緒なら負けねえ」
俺が笑うと、まつが小さくため息をついた。
「負けないのはいいけど、死なないでよ。お前、母ちゃんとの約束あるでしょ。私との約束もあるよ」
まつの言葉に、俺はニヤッと笑った。
「分かってるよ。俺、生きて帰る。まつが待ってるからな」
まつが笑って、小さな袋を差し出した。
「なら、これ持ってて。干し柿と傷薬だよ。お前、無茶するから」
俺は袋を受け取って、ニヤけた。
「またか。ありがとよ、まつ。お前、ほんと頼もしいな」
「夫婦だもの。お前が戦うなら、私が支える」
まつの澄んだ目が、俺の胸を熱くした。俺はまつの手を握って、頷いた。
桶狭間の戦い
数日後、俺たちは桶狭間にいた。
今川の大軍が陣を張る中、信長の奇策で雨の中を進んだ。俺は赤い母衣を背負い、槍を手に持って、先陣を切った。信長が叫ぶ。
「利家! 突っ込め! 今川の首を取れ!」
「うおおおお!」
俺は槍を構えて、敵陣に突っ込んだ。雨で視界が悪い中、今川の足軽が俺に襲いかかってきた。俺は槍を振って、突いて、ぶっ倒した。血が飛び散り、泥に混じる。初めての本物の戦場に、俺の心臓がバクバクした。
「利家、右だ!」
藤兵衛が叫ぶ。俺は右に槍を振って、敵を突き刺した。赤母衣衆として、俺は信長の先鋒を駆けた。今川の軍が混乱する中、信長が奇襲を成功させ、義元の首を取った。戦いは俺たちの勝ちだった。
戦後、俺は血と泥にまみれて、槍を握ってた。藤兵衛が近づいてきた。
「利家、やるじゃねえか。槍の又左衛門だな」
「当たり前だろ。俺、信長と約束したぜ」
俺は笑ったけど、震えが止まらなかった。
帰還と影
その夜、まつの待つ部屋に戻った。
「利家!」
まつが駆け寄って、俺を抱きしめた。血と泥だらけの俺を、まつは気にしねえ。
「生きて帰ったぞ、まつ」
俺が笑うと、まつが涙目で頷いた。
「よかった。お前、無事で」
俺はまつの頭を撫でて、座った。まつが傷薬を手に持って、俺の傷を拭く。
「お前、ほんと頼もしいな」
「夫婦だもの。お前が戦うなら、私が癒す」
まつの言葉に、俺は笑った。
その夜、夢を見た。
暗い森だ。俺が槍を持って立ってる。目の前に、黒い影。兜をかぶった武将が、俺と同じ槍を持ってる。
「お前は誰だ?」
俺が聞くと、そいつが答えた。
「お前が貫いたものだ。そして、お前が守るものだ。絆は強さだ」
目が覚めた時、まつの寝息が聞こえた。俺は拳を握った。桶狭間で名を上げ、まつとの絆が俺を強くする。あの影が何だか分からねえ。でも、俺は槍とまつを手に持つ。