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槍の又左衛門 前田利家が貫いた乱世の幻影と能登の未来  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
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まつの決意


その日の夕方、信長に連れられて座敷に入ると、まつが待ってた。

16か17歳くらいのまつは、小柄だけど、目は澄んでて、静かな強さがある。着物はシンプルで、俺をじっと見てる。

「犬千代、久しぶりね」

まつが静かに笑う。俺は槍を置いて、少し照れた。

「まつか。お前、こんなとこで何してんだ?」

信長がニヤッと笑って、口を開いた。

「こいつ、お前と夫婦になる話だ。俺が決めた。まつ、どうだ?」

まつが信長を見て、頷いた。

「信長様がそう言うなら、私、いいよ。犬千代はどう思う?」

俺はまつを見た。こいつの澄んだ目が、俺を捕まえる。

「お前、俺でいいのか?」

俺が聞くと、まつが小さく笑った。

「いいよ。お前なら、私を守ってくれるでしょ? 私もお前を支えたい」

その言葉が、俺の胸に刺さった。母ちゃんの「生きて帰ってきておくれ」と、まつの「守ってくれる」が重なった。俺はニヤッと笑って、頷いた。

「当たり前だろ。俺、槍で守ってやる。お前が支えてくれるなら、俺も頼るよ」

まつが笑って、目を細めた。

「なら、決まりね」

信長が手を叩いて笑った。

「よし! これで犬千代も一人前だ! さっさと祝言挙げろ!」

結婚の儀

数日後、那古野城の小さな間で祝言が執り行われた。

織田家の家臣や親戚が集まり、信長がニヤニヤしながら見てる。俺は初めてまともな着物を着せられて、槍の代わりに盃を手に持った。まつは白い着物に身を包み、静かに俺の隣に座ってる。髪を結い上げて、いつもより大人っぽい。

「犬千代、お前、緊張してんのか?」

信長がからかう。俺はムッとして言い返した。

「緊張なんかしてねえよ。槍持ってる方が落ち着くけどな」

まつがクスクス笑う。

「槍は置いといて、今は私を見ててよ」

その言葉に、俺は少し顔が熱くなった。儀式が始まり、盃を交わす。俺とまつは三三九度を済ませて、夫婦になった。家臣たちが拍手する中、信長が大声で叫んだ。

「これで犬千代も一人前だ! まつ、こいつをよろしくな!」

まつが頷いて、俺を見た。

「よろしくね、犬千代」

「俺もだ、まつ」

俺はまつの手を握った。その手は小さくて温かくて、俺の胸を妙に落ち着かせた。

祝言の後、俺たちは小さな部屋に移った。

二人きりになると、まつが静かに言った。

「犬千代、私、強さって守ることだと思う。お前はどう思う?」

俺は少し考えて、答えた。

「槍で敵をぶっ倒すのも強さだ。でも、お前や母ちゃんを守るのも強さだな」

まつが笑って、頷いた。

「なら、私もお前を守るよ。夫婦だもの」

その言葉に、俺はニヤッと笑った。

「頼もしいな。俺、槍で、まつは頭で守るか」

まつがクスクス笑う。俺たちは笑い合って、初めての夜を過ごした。まつの隣にいると、戦場とは違う温かさが俺を包んだ。

影の祝福

その夜、夢を見た。

暗い森だ。俺が槍を持って立ってる。目の前に、黒い影。兜をかぶった武将が、俺と同じ槍を持ってる。顔は見えねえ。兜の下は闇しかねえ。

「お前は誰だ?」

俺が聞くと、そいつが低い声で答えた。

「お前が守るものだ。そして、お前が貫くものだ。絆を手に持て」

目が覚めた時、心臓がバクバクしてた。でも、今回は怖くなかった。隣で寝てるまつの寝息が、俺を落ち着かせた。

俺は拳を握った。まつとの結婚が、俺に新しい強さをくれた。あの影が何だか分からねえ。でも、俺は槍とまつを手に持つ。それでいい。



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