第六九話
帝都アルテミスの街は、午後の穏やかな陽光に包まれていた。
空は薄い雲に覆われ、優しい風が石畳の通りをそよぎ、遠くの市場から漂うパンや香辛料の香りが鼻をくすぐった。私は一人、広場の端に立っていた。白いワンピースを着て、スカートに隠した狩猟刀の感触が太ももに残り、かつての戦いの記憶を呼び起こしていた。
紫の瞳が広場を見渡し、心の中には最近の出来事が渦巻いていた。
怪物化したヘックスを倒し、自分とロザンナが戦い抜いた日から数日が経っていた。
脅威がなくなり、初めて感じる平穏が私の胸を満たしていた。
「…戦い、終わった。安心?」と呟き、紫の瞳が陽光に照らされる石畳を捉えた。
だが、心の奥にはまだざわめきがあった。
ロザンナとのキス、屋根での約束、彼女が一人で危険に飛び込んだ勇気――それらが私の心を温め、同時に不安を残していた。
「…姉さん、大丈夫?」と呟き、広場の賑わいを見つめた。
広場にはさまざまな屋台が並び、色とりどりの布が風に揺れ、子供たちの笑い声が響いていた。果物や手作りのアクセサリー、焼き立てのパンの香りが混ざり合い、活気ある雰囲気が広がっていた。
心が少し軽くなり、「…見て回ろう」と呟き、静かに歩き始めた。白銀の髪が風に舞い、太陽の温もりが肌に心地よく感じられた。
だが、胸の奥のざわめきは消えず、「…何か、起こる?」と予感が頭をよぎった。
屋台を一つ一つ眺めながら歩いていると、ある店が目に止まった。
金属加工の職人が店主として立ち、鉄や銀で作られたさまざまな製品がテーブルの上に並んでいた。ナイフ、装飾品、鍵――その中でも一つのロケットペンダントが私の視線を捉えた。
銀色に輝く小さな箱には、細かな彫刻が施され、開くと中に入る写真を保護する設計だった。
心が温かくなり、「…綺麗」と呟き、紫の瞳がペンダントに注がれた。
手を伸ばしかけた瞬間、後ろから穏やかな声がした。
振り返ると、そこにはロザンナが立っていた。
漆黒の黒髪が風に揺れ、赤い瞳が優しい笑みを浮かべていた。
優雅なローブを纏い、彼女の姿は太陽光に照らされて神々しかった。
心が跳ね、「…姉さん、来た」と呟き、胸のざわめきが喜びに変わった。
ロザンナが近づき、優雅な立ち振る舞いで私の隣に立った。
彼女の香りが漂い、心が穏やかになった。「リリィ、いいものを見つけたね」と彼女が微笑み、ペンダントを手に取った。
リリィの視点 - ペンダントの贈り物
ロザンナが店主に近づき、赤い瞳でペンダントをじっと見つめた。店主の年老いた手が金属を磨き、陽光に反射する光がテーブルの上に散った。
彼女が「このロケットペンダントを二つ、注文したい」と穏やかに言った。心が疑問で揺れた。「…二つ? なぜ?」と呟き、紫の瞳が彼女を捉えた。
店主が頷き、裏で作業を始めると、ロザンナが私の方を向き、優しい声で言った。
「怪物と一緒に戦ってくれたお礼だよ、リリィ」
胸が温かくなり、「…礼? 姉、ありがとう」と呟いた。彼女の赤い瞳が私を見つめ、絆の深さを感じた。
店主が二つのペンダントを手に戻り、一つは赤い色、もう一つは白銀の色に仕上げていた。
ロザンナが「写真を入れよう」と提案し、近くの写真屋台で私たち二人が写る写真を撮った。
カメラのフラッシュが一瞬広場を照らし、笑顔のロザンナと僅かに微笑む私を収めた。
心がドキドキし、「…初めて、笑った?」と呟いた。
写真が現像され、ロザンナが慎重にロケットペンダントを開き、写真を中に入れた。
赤いペンダントには彼女の笑顔が、白銀のペンダントには私の微笑みが収まった。
彼女が「これが私たちが確かに存在した証明だよ。
リリィと私が、それぞれ一つずつ持とう」と言い、ペンダントを私に手渡した。
心が温かく、胸のざわめきが消えた。
「…証明。姉さんと、私」と呟き、紫の瞳がペンダントを見つめた。
ロザンナが私の首に白銀のペンダントをかけ、彼女は赤いペンダントを自分の首に掛けた。
金属の冷たい感触が肌に触れ、絆の象徴として重みを感じた。
彼女が満面の笑顔を浮かべ、私も僅かに微笑んだ。心が軽くなり、「…笑える。嬉しい」と呟いた。
ロザンナが「また会いましょう。リリィ」と言い、優雅に踵を返した。
彼女の背中が広場の群衆に消えていくのを見送り、胸に温かい風が吹くのを感じた。
広場を後にし、ミリアたちの待つ家へ向かう道を歩いた。
石畳に陽光が反射し、木々の緑が風に揺れる様子が目に優しかった。
首に掛けた白銀のロケットペンダントが軽く揺れ、ロザンナとの絆を思い出させた。心が自然と笑顔になる。
「…嬉しい。どこか、こそばゆい」と呟いた。
胸のざわめきが喜びに変わり、初めて感じる感情が広がった。
家に近づくと、ミリアの緑の瞳やレオンの鋭い視線、ガルドの豪快な笑い声が想像できた。心が温かく、「…仲間、待ってる」と呟いた。
ロザンナとの別れが寂しさをもたらしたが、ペンダントがその絆を繋ぐ証として存在していた。陽光が私の白銀の髪を照らし、未来への希望が胸に芽生えた。
「…姉さん、また会おう」と心の中で約束し、笑顔のまま家へと向かった。




