第六一話
ミリアside
帝都アルテミスに戻った勇者一行――レオン、ガルド、ミリア、そしてリリィ――は、魔法研究施設で年老いた魔法使いヘックスから衝撃的な事実を聞かされた。暗殺用に調整されたもう一人のホムンクルスと人間のハーフが存在し、その個体がリリィを狙う可能性があるというのだ。
宿屋の部屋に戻った私たちは、暖炉の前に集まり、ヘックスの言葉が頭から離れなかった。
部屋の中は暖炉の火が放つオレンジ色の光で照らされ、木製の床に揺れる影が不気味に映った。
私の心は、ヘックスの冷たい声と「暗殺用ホムンクルス」という言葉で混乱していた。「リリィちゃんが危険に晒されている…。あの暗殺者が、ユンゲや魔法使いを殺したのかも」と私は緑の瞳を伏せ、杖を握る手に汗が滲んだ。レオンは窓辺に立ち、剣を手に持つその背中に、普段の冷静さとは異なる緊張が漂っていた。
「…暗殺用か。リリィを守るためにも、その存在を確かめないといけない」と彼は呟き、低い声に僅かな焦りが混じっていた。ガルドは暖炉のそばで大剣を膝に置き、「まぁ、来るなら来てみやがれ! 俺がぶっ倒してやるぜ!」と笑ったが、その笑顔の奥には落ち着かない様子が垣間見えた。
リリィだけは、いつもの無表情で暖炉の火を見つめていた。火の揺れる光が彼女の白銀の髪と紫の瞳を映し、静かな佇まいが一層謎めいて見えた。
「…リリィちゃん、何を考えているの?」と私は内心で呟き、彼女のそばに座った。彼女の心が読めないことが、私をさらに不安にさせた。暖炉の火がパチパチと音を立て、部屋に漂う緊張感を増幅させていた。
その日から10日が過ぎた。帝都の街は朝陽に照らされ、市場の喧騒が遠くから聞こえていたが、宿屋の部屋の中は重苦しい空気に包まれていた。レオンは毎朝、帝都の衛兵と情報を交換し、暗殺者の手がかりを探していたが、進展はなかった。
私の心は日増しに不安でいっぱいになり、「リリィちゃんを一人にできない…。もし暗殺者が現れたら、どうやって守る?」と何度も考え、夜も眠れなかった。レオンも同様で、彼の鋭い目には疲れが滲み、
「…このままでは、いつ襲われるか分からない」と呟きながら、剣を研ぐ手が早くなっていた。
ガルドは楽天的な態度を保とうとしていたが、どこか落ち着かない様子だった。
「おい、ミリア、リリィを連れて街を歩くくらい、大したことねえだろ! 俺が守るぜ!」
と笑うが、その声に強がりが混じっていた。リリィは相変わらず無表情で、私のそばに座り、スコップを手に持つだけだった。彼女の静けさが、私には不気味にすら感じられた。
「リリィちゃん…怖くないの?」と私は尋ねたが、彼女は「…ミリアと一緒。怖くない」と呟くだけで、その奥に何があるのか分からなかった。
10日目の夜、暖炉の火が弱まり、部屋は薄暗くなった。ガルドが苛立ちを隠せず、独り言をこぼした。
「いっそのこと暗殺者がとっとと現れてくれりゃ、さっさと倒すなりとっ捕まえるなりすれば安心なんだがな…これじゃおちおちリリィを1人で街を歩かせられねぇぜ」
と呟き、大剣を床に叩きつけた。音が部屋に響き、私の心臓が跳ね上がった。レオンが「…ガルド、焦っても仕方ない」と冷静に諭したが、彼の目にも苛立ちが浮かんでいた。
その瞬間、レオンの表情が一変した。
彼が「ならその暗殺用ホムンクルスが出てきたくなるような状況を作るか…」と呟き、鋭い目で私とガルドを見た。
私の胸がドキリと鳴り、「…何!? そんな危険なことを?」と内心で叫んだ。
ガルドが「…おお、面白え! それ、いいアイデアじゃねえか!」と笑ったが、その声に緊張が混じっていた。
レオンが「ミリア、ガルド、聞け。暗殺者がリリィを狙うなら、彼女を囮に使うことで、敵を誘き出せるかもしれない」と呟き、テーブルに地図を広げた。
私の心は恐怖で揺れた。「リリィちゃんを囮に…? ダメだよ、そんなの! リリィちゃんを危険に晒すなんてできない!」と私は叫びそうになり、杖を握る手が震えた。でも、レオンの目には確固たる決意が宿っており。
「…だが、これが最善の策だ。暗殺者を倒さなければ、リリィはいつまでも狙われる。俺たちが守る」と呟いた。ガルドが「レオン、俺は賛成だ! リリィを守るためなら、どんな作戦でもやるぜ!」と頷き、大剣を手に持った。
レオンが「帝都の市場で、リリィを一人で歩かせるふりをする。俺たちが見えない場所から守る。暗殺者が現れたら、即座に挟み撃ちだ」と説明した。地図の上に指を置きながら、彼の声は冷静だったが、内心では「リリィを危険に晒す…失敗したらどうなる?」と葛藤していた。私は「レオン…本当に大丈夫? リリィちゃんが傷ついたら…」と呟き、涙がこぼれそうになった。
レオンが「ミリア、信じてくれ。俺はリリィを失うわけにはいかない」と呟き、私の手を握った。その温もりに、少しだけ安心感が戻った。
ガルドが「ミリア、俺がリリィのそばにいるからな! 暗殺者が来たら、即座にぶっ倒すぜ!」と笑ったが、その笑顔の裏に不安が隠れているのが分かった。
リリィが「…ミリア、私…大丈夫。仲間と一緒なら」と呟き、無表情のまま暖炉の火を見つめた。彼女の言葉に、私の心は揺れた。
「リリィちゃん…あなたがそんなに強いって分かっていても、怖いよ。でも、あなたの決意を尊重したい」と私は呟き、彼女の髪を撫でた。
夜が深まり、暖炉の火が弱まる中、一行は作戦の最終調整を始めた。
レオンが「明日の朝、市場で実行する。ミリア、魔法で周囲を監視してくれ。ガルド、リリィの近くで待機だ。俺は遠くから全体を見守る」と指示した。
「…分かった。リリィちゃんを守るために、魔法を全力で使うよ」
とミリアは呟き、杖を手に持った。
「よし、準備万端だ! リリィ、頼むぜ!」
といつもの笑顔でガルドが言うと
「…うん。ガルド、ありがとう」
とリリィが呟いた。
リリィの無表情な顔を見つめながら、私の心は不安と決意でいっぱいだった。
「リリィちゃん…あなたを危険に晒すなんて嫌だ。でも、これで暗殺者を倒せれば、安心して生きられるよね?」
と私は内心で呟き、暖炉の火を見つめた。
レオンの作戦は危険を伴うが、リリィの未来を守るための賭けだった。
一行は互いの目を合わせ、静かに頷き合った。
明日の市場での戦いが、彼女の運命を決めるかもしれない――その思いが、私たちの心を一つに結びつけた。




