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第六十話


帝都アルテミスに帰還した私、ミリアは、仲間たち――レオン、ガルド、リリィと共に、森の砦での戦いを終えた安堵感に浸っていた。しかし、魔王軍の生き残りである戦術家クロノスの最期の言葉である「お前は…こちら側の存在だ…人と…相容れない…存在だ」という言葉を残して事切れる。

調査の過程で魔法研究施設で話を聞いた初老の魔法使いとユンゲが殺害され、頑丈な石の壁に開けられた大きな穴と血に染まった遺体が、私たちの前に帝国の闇の一部を露わにした。

あの朝、宿屋のロビーで衛兵から聞いた報せは、私の心を凍りつかせた。

レオンとガルドが貴族や王族に話を聞きに行く間、リリィと私は再び魔法研究施設へと向かうことを決めた。

研究施設への道すがら、帝都の石畳を歩く私の足音が虚しく響いた。朝陽が雲に隠れ、冷たい風がローブの裾を揺らす。リリィが私の横を無表情で歩き、白銀の髪が風に舞っていた。彼女の紫の瞳は静かで、私の手を握る小さな手は温かかった。

「…ミリア、大丈夫?」とリリィが呟き、その声に私の心が少し軽くなった。でも、心の奥では不安が渦巻いていた。リリィがホムンクルスと人間のハーフであること、彼女を狙うかもしれない存在がいること――それが現実として迫ってきている。

施設に近づくと、石造りの外壁に苔が這う不気味な雰囲気が私を包んだ。ガラス窓からは薄暗い光が漏れ、内部の静寂が不穏さを増していた。リリィが「…ミリア、怖い?」と呟き、無表情のまま私を見つめた。

「少しね…でも、リリィちゃんが一緒だから大丈夫よ」と私は笑顔を作り、彼女の手を強く握った。

内心では、彼女を守る決意と、未知の敵への恐怖が交錯していた。


施設の中に入ると、冷たい空気が肌を刺した。石の廊下を進む足音が反響し、魔力の気配が微かに漂っていた。

リリィが私のそばに寄り添い、スコップを手に持つその姿は、どこか頼もしくもあり、儚くもあった。

すると、廊下の奥から白髪交じりのローブをまとった年老いた魔法使いが現れた。

彼は杖を手に持つと、私たちに近づき、かすれ声で呟いた。

「おや、若いの。勇者一行の魔法使い、ミリア嬢と…その子はリリィか? 会えて光栄だよ」


その言葉に、私は一瞬身構えた。社交辞令とはいえ、その老人の目は鋭く、私を値踏みするように見つめていた。

名前を名乗る前に、彼が「私はヘックスだ。昔、この施設で研究をしていた者だ」と呟き、薄い笑みを浮かべた。心の中で警鐘が鳴った。

「…ヘックス? ホムンクルスの研究に関わっていた可能性がある?」と私は考え、疑いの念が広がった。でも、リリィの安全のためには情報が必要だ。「用件を教えてください」と私は平静を装い、杖を手に持った。


ヘックスが「若い頃、ホムンクルスの研究をしていた。人間とのハーフの研究も少し手掛けたことがある」と呟き、その言葉に私の胸が締め付けられた。リリィが「…ホムンクルス?」と呟き、無表情のままヘックスを見つめた。彼女の声は小さく、純粋な好奇心が混じっていたが、私の心は恐怖で震えた。

「リリィちゃんが…実験の産物だと認めている?」と私は内心で呟き、彼女の手を握る力が強くなった。

ヘックスが「こっちへ来てくれ」と呟き、私たちを施設の人気のない部屋へと案内した。石の壁に囲まれた薄暗い部屋は、埃っぽい空気が漂い、棚には古い魔術書が積まれていた。窓から差し込む光は少なく、部屋全体が不気味な雰囲気に包まれていた。

ヘックスが「ここなら、邪魔が入らない」と呟き、椅子に腰を下ろした。私はリリィをそばに引き寄せ

「…何を話したいの?」と尋ねた。ヘックスの目が一瞬鋭くなり、「リリィとは別に、当時の研究所から行方が分からなくなっているハーフのホムンクルスがいる」と呟いた。


その言葉に、私の心が凍りついた。「…行方不明? もう一人のホムンクルス?」と私は呟き、杖を握る手に汗が滲んだ。

ヘックスが「そのホムンクルスは暗殺用に調整されていた。パワーを重視し、戦闘能力を極限まで高めた個体だ。もし仮に病気や戦闘で死んでいない限り、寿命はまだ来ていないはずだ」と呟き、冷たい視線を私に向けた。

リリィが「…暗殺用?」と呟き、紫の瞳に微かな恐怖が浮かんだ。彼女の無垢な姿が、突然、危険な存在と結びついて見えた。

ヘックスが

「暗殺用のホムンクルスは、存在を知っている者、知っている可能性のある者も暗殺対象になるよう設定されていた。だが、知っていても暗殺の対象にならない者の設定をする前に、魔王軍の襲撃を受けて行方不明になった」


と呟き、ため息をついた。私の頭は混乱でいっぱいになった。


「…魔王軍? それがユンゲと魔法使いを殺したのか? いや、もっと深い闇がある?」と私は考え、リリィを保護する衝動に駆られた。


心の中で、恐怖と怒りが交錯した。


「リリィちゃんをこんな危険に巻き込むなんて…。でも、彼女の過去を知るためには、この情報を信じるしかない」と私は唇を噛み、涙をこらえた。

リリィが「…ミリア、私…怖い」と呟き、無表情のまま私のローブを掴んだ。その小さな手が震え、私の心を締め付けた。


「リリィちゃん…大丈夫よ。私が守るから。どんな敵が来ても、絶対に離さない」と私は呟き、彼女を抱きしめた。


ヘックスの声が再び響いた。


「その暗殺用のホムンクルスが、今どこにいるかは分からない。だが、最近の事件…魔法使いたちの殺害は、その手による可能性が高い。リリィが封印から解かれた今、彼女も危険に晒されている」

と呟き、冷たく笑った。その笑顔に、不気味な影が差したように見え、私の背筋が凍った。


「…ヘックス、あなたは何を知っているの? 隠していることがある?」

と私は鋭く尋ねたが、ヘックスは「知っているのはこれだけだ。若い頃の罪は、もう償ったつもりだ」と呟き、立ち上がった。


ヘックスが部屋を出て行くと、静寂が部屋を包んだ。

リリィが「…ミリア、過去…知る?」と呟き、紫の瞳で私を見つめた。彼女の純粋さが、私の心を突き刺した。


「リリィちゃん…うん、知るよ。あなたの過去を知ることで、守れる方法が見つかるかもしれない。レオンとガルドも一緒だから、怖がらないで」

と私は笑顔を作り、彼女の髪を撫でた。内心では、もしもう一人のホムンクルスがリリィを狙ったら…? 私に守れるのか?…と不安が渦巻いていた。

研究施設の薄暗い廊下を歩きながら、私はリリィの手を握り続けた。

石の壁に響く足音が、私の決意を後押しした。リリィを守るためなら、どんな闇にも立ち向かう覚悟ができた。レオンとガルドにこの情報を伝え、一行で対処するしかない。

もう一人のホムンクルスが暗殺者として現れるかもしれないその日まで、私たちはリリィと共に戦い続けるのだった。

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