第六話
影の森を抜け、小さな町に辿り着いた勇者一行とリリィは、宿屋に荷物を置いた後、町の市場へと足を向けた。石畳の道に並ぶ露店や商店が賑わいを見せ、旅人や住民が行き交う中、レオン、ガルド、ミリア、そしてリリィはまず彼女の身なりを整えることにした。血と土にまみれた服を着たままのリリィを見て、ミリアが優しく提案した。
「リリィちゃん、新しい服を買ってあげたいわ。戦うにも、普段着るにも、ちゃんとしたものがいるでしょ?」
ガルドが豪快に笑いながら頷く。
「ああ、ついでに武器もな! お前、ナイフ一本じゃ心許ねえぜ。」
レオンは黙って二人を見やり、リリィに尋ねた。
「お前はどうしたい?」
リリィは紫の瞳で三人を見上げ、静かに答えた。
「服…欲しい。武器も…もっと強いのがいい。」
その無感情な声に、レオンは小さく頷いた。
一行はまず、服飾店へと向かった。木造の小さな店内には、色とりどりの服が並び、店主の老婆が笑顔で出迎えた。ミリアがリリィの手を引き、棚の前で服を選び始めた。
「リリィちゃん、普段着るなら可愛いのがいいよね?」
彼女は白いワンピースを見つけ、薄い青色のベストを手に取った。
「これなんてどう? シンプルで動きやすいし、あなたの銀髪に映えそう。」
リリィは服をじっと見つめ、無言で頷いた。試着室で着替えたリリィが姿を見せると、白いワンピースが彼女の華奢な体にぴったり合い、青いベストが紫の瞳と調和して清楚な印象を与えた。
ミリアが目を輝かせて絶賛した。
「可愛い! リリィちゃん、まるでお人形さんみたい! ねえ、レオン、ガルド、どう思う?」
ガルドが笑いながら言う。
「おお、いいじゃねえか! 小さな姫様みたいだな。」
レオンは無表情で「悪くない」とだけ呟いたが、内心ではその無垢な姿に少し驚いていた。
リリィは鏡に映る自分を見つめ、静かに呟いた。
「…ありがとう。」感情は薄かったが、ミリアはその言葉に嬉しそうに微笑んだ。
次に、一行は戦闘用の装備を求めて鍛冶屋兼服飾店へと移動した。
そこでは旅人や傭兵向けの頑丈な服と武器が並んでいた。ガルドがリリィを連れて服のコーナーへ行き
「戦うなら動きやすくて目立たねえのがいいぜ」
と、マルチカム迷彩の長袖コンバットシャツとショートパンツを手に取った。
「これなら森でも荒野でも隠れやすい。黒いタイツと茶色のショートブーツも合わせてみろ。」
リリィはそれらを受け取り、試着室へ。
出てきた彼女の姿は一変していた。迷彩柄のシャツとショートパンツが彼女の小さな体にフィットし、黒いタイツが脚を覆い、ショートブーツが足元を引き締めた。
戦士らしい機能性と、どこか少女らしい軽やかさが混在する姿に、ガルドが豪快に褒めた。
「おお、こりゃ戦士だ! 小柄なのに迫力あるぜ、リリィ! 俺より似合ってるかもしれねえな!」
ミリアも笑顔で言う。
「可愛いのに強そうで素敵ね。」
レオンは腕を組み、「実用的だ」と短く評価したが、彼女の戦闘向きの雰囲気に納得していた。リリィは新しい装いを見下ろし、「動きやすい」とだけ呟いた。
その言葉に、ガルドが満足げに頷いた。
服が決まった後、一行は武器コーナーへ移った。鍛冶屋の親父が並べた剣や槍、斧を見ながら、レオンがリリィに尋ねた。
「お前、どんな武器がいい?」
リリィは棚に並ぶ刃物をじっと見つめ、やがて言った。
「ナイフがいい。でも、もっと長いの。二本欲しい。」
その意向を聞いた鍛冶屋が、長さ40cmほどの狩猟刀を二本取り出した。
刃は鋭く、柄は握りやすい革巻きで、軽量ながら頑丈な作りだった。
「これなら小柄なお嬢ちゃんでも扱える。両手で持つなら機動力も出るぜ。」
リリィは二本の狩猟刀を手に取り、軽く振ってみた。
刃が空を切り、彼女の紫の瞳が静かに光った。
「これがいい。」その即決に、ガルドが笑いながら言う。
「お前、ナイフ好きだな! 二刀流ってのも渋いぜ。」
レオンが鍛冶屋に金を渡し、「これで決まりだ」
と締めくくった。ミリアは少し心配そうに呟いた。
「リリィちゃん、二本も持って危なくないかしら…」
だが、リリィが無感情に「大丈夫」と答えると、彼女は小さく笑って頷いた。
装備を整えた一行は、市場を後にして宿屋に戻った。リリィは新しい私服——白いワンピースと青いベスト——を着ており、戦闘用の迷彩装備と狩猟刀二本は袋に詰められていた。宿の部屋で、ミリアがリリィの銀髪を櫛で梳きながら言う。
「これで少しは旅らしくなったわね。リリィちゃん、気に入った?」
リリィは静かに頷き、
「うん。動きやすいし…可愛いって言われたから。」
その言葉にミリアが目を細め
「そうよ、あなたは可愛いんだから」と優しく笑った。ガルドが部屋の隅で大剣を磨きながら言う。
「戦闘服も似合ってたぜ。あの二刀流で魔物をバッサバッサやっちまえ!」
レオンは窓辺に立ち、外を見ながら呟いた。「装備は整った。次は情報だ。町で魔王の手がかりを探る。」
その夜、宿の食堂で食事をしながら、一行はリリィの新たな姿について語り合った。ミリアがスープを渡しながら言う。
「リリィちゃんの私服、本当に可愛いわ。旅の疲れが癒されるみたい。」
リリィはスープを飲み、無言で頷いた。ガルドが肉を頬張りながら笑う。
「戦闘服も最高だぜ。あの迷彩なら森で敵に見つからねえし、二刀流で切りまくれば俺らも楽できる!」
レオンは黙って聞いていたが、リリィの紫の瞳を見や
り、静かに言った。
「お前、見た目は変わったが、中身は変わらないな。」リリィは首を傾げ、「中身?」と呟いた。レオンが小さく笑い、
「いや、いい意味だ。強さがそのままってことだ」
と付け加えた。
翌朝、一行は町の広場へ出た。リリィは私服姿で歩き、戦闘装備は背囊に収めていた。町民たちが彼女の清楚な姿に目を留め、微笑む者もいた。ミリアが嬉しそうに言う。
「ほら、リリィちゃん、みんな見てくれるわよ。」
リリィは無感情に「そう?」と答えたが、どこか満足そうだった。ガルドが市場で武器を眺めながら呟く。
「あの狩猟刀を素振りをしてるとこを見てたけど、俺でも扱えそうにねえ速さで動いてたぜ。お前、ほんとすげぇな。」
その言葉に、リリィは静かに答えた。「昔から…こうだった。」レオンは町の冒険者が集まる酒場に行き魔王の手がかりを探し始めたが、リリィの新しい装いと武器が一行に新たな力を与えていることを感じていた。
町での一日が終わり、宿に戻ったリリィは、私服から戦闘用の迷彩装備に着替えてみた。部屋の鏡に映る自分を見つめ、狩猟刀を手に持つ。ミリアがそっと近づき、「どっちも素敵よ」と言うと、リリィは小さく頷いた。「ありがとう。強く…優しく生きるために。」その言葉に、ミリアが微笑み、ガルドが笑い、レオンが静かに見守った。リリィの旅は新たな装いと共に進み、魔王を倒す道のりで彼女の存在感はさらに際立っていくのだった。