第五九話
一行は魔法研究施設へと向かった。
帝都の石畳を歩く足音が、朝の静寂を切り裂いた。施設に近づくにつれ、石造りの外壁に苔が這う不気味な雰囲気が漂い、ミリアの心に不安が広がった。ガルドが「…こんな静かだ。嫌な予感がするぜ」と呟き、大剣を握り直した。リリィが「…怖くない。仲間と一緒」と呟き、無表情のままスコップを手に持った。
施設の裏手に入ると、衛兵が囲む中、初老の魔法使いとユンゲの遺体が壁に磔にされていた。石の壁には血が滴り、冷たい風が血の匂いを運んだ。
レオンの胸が締め付けられ、「…これが現実か…」と内心で呟き、剣を握る手に力がこもった。ミリアが「リリィちゃん、見ないで…」と呟き、リリィの目を覆ったが、リリィが「…見る。私の…過去」と呟き、ミリアの手をそっと外した。
ミリアが遺体に近づき、癒しの魔法を応用した探査術で調べ始めた。彼女の掌から淡い光が広がり、遺体の状態を詳しく見ていった。「…魔法を使った痕跡はない。
純粋な物理攻撃で…喉を切り裂かれ、磔にされたわ」とミリアが呟き、顔を青ざめさせた。レオンが「物理攻撃…? だが、こんな力で…」と呟き、石の壁を見上げた。
壁には、大きな穴が開いていた。
魔法が暴走しても耐えられるよう特別に頑丈に作られた石の壁に、拳大の穴が空いており、周辺の石が砕け散っていた。
ガルドが「…何!? この穴、俺の力でも開けられねえぞ!」と叫び、大剣で壁を叩いてみたが、わずかに傷がつくだけだった。ガルドの屈強な体から繰り出される一撃が、壁にほとんど影響を与えないことに、彼の顔に驚愕が浮かんだ。
リリィが「…私でも…無理」と呟き、スコップで壁を叩いてみた。彼女の驚異的な力でさえ、壁に小さなひびが入る程度で、大きな穴を開けるには至らなかった。リリィの紫の瞳に、初めて恐怖の色が混じった。
レオンが「…この力…ガルドやリリィを超えている。普通の人間では不可能だ」と呟き、眉を寄せた。ミリアが「…リリィちゃんの他にも…人間とのハーフのホムンクルスがいる? パワー重視の個体…?」と呟き、震える手でリリィを抱き寄せた。
レオンの心は、混乱と恐怖で揺れていた。
「…リリィを守るために戦ってきたのに、彼女と同じ存在が敵として現れるとは…。この力を持った者が、ユンゲと魔法使いを殺したのか?」と内心で呟き、剣を握る手が汗で濡れた。
ミリアの胸は、リリィの安全に対する不安で締め付けられた。
「リリィちゃん…あなたをこんな危険に巻き込むなんて…。でも、逃げても追ってくるかもしれない」と彼女は唇を噛み、涙をこらえた。
ガルドが「レオン、ミリア、この穴を開けた奴…リリィを狙ってる可能性が高いぜ。俺は戦う! リリィを守るためなら、どんな敵でもぶっ倒す!」と叫び、大剣を手に持った。
リリィが「…私…強い。でも、怖い。仲間と一緒なら…大丈夫」と呟き、無表情のままミリアの手を握った。彼女の心は、過去の封印された記憶と向き合う恐怖と、仲間への信頼で揺れていた。
レオンが「…分かった。リリィの過去と向き合うなら、俺たちもその覚悟をする。
だが、この力を持ったホムンクルスが敵なら、ただ戦うだけでは足りない。
帝国の秘密を暴く必要がある」と呟き、剣を手に持った。
ミリアが「レオン…私、魔法で調べるよ。リリィちゃんを守るために、どんな敵でも見極めるから」と呟き、杖を手に持った。
魔法研究施設の裏手は、冷たい風が吹き抜ける不気味な空間だった。
血に染まった壁と、開いた穴が、未知の敵の存在を物語っていた。一行はリリィの身の安全と、彼女の過去の真実を求める決意を新たにした。
レオンが「リリィ、俺たちはお前と共にある。どんな敵が現れても、守り抜く」と呟き、リリィを見つめた。
リリィが「…レオン、ミリア、ガルド…ありがとう。過去…一緒に、見つける」と呟き、無表情のまま小さな笑みを浮かべた。
一行は、帝国の闇に踏み込む覚悟を固めた。リリィの他にも存在するかもしれないホムンクルスのハーフ、そのパワー重視の個体が、彼女の命を狙う敵として現れるかもしれない。
だが、仲間としての絆は、どんな危険にも立ち向かう力となっていた。帝都アルテミスの冷たい朝の中、一行は新たな戦いの道へ進み始めた。