第四十三話
魔王とその右腕である執事を倒し、帝国の都「アルテミス」に一時的な平和が訪れたかに見えた。しかし、勇者一行――レオン、ガルド、ミリア、そしてリリィ――は新たな脅威に直面していた。
レオンとガルドの調査により、魔王を影から支えていた戦術家「クロノス」が生き残っていることが判明した。
クロノスは表舞台に出ることなく、知略で魔王の軍勢を操っていた男だ。常にローブを被り、姿を隠して行動する彼は、魔王が倒された後も新たな計画を進めている可能性があった。
レオンが「クロノスは知略家だ。直接戦うより、策で追い詰めてくる。まずは奴の居場所を突き止める必要がある」と一行に告げた。
ガルドが「俺とレオンで王都の外れを調べる。ミリアとリリィは王都内で情報収集を頼む」と提案し、ミリアが「わかった、リリィちゃん、私たちも頑張ろうね」と笑った。
リリィが無表情で「…うん。ミリアと一緒なら…できる」と呟くように言った。
一行はそれぞれの役割を分担し、クロノスを追う調査を開始した。
その後、リリィは単独で行動していた。
彼女は以前、ミリアと食事中に路地裏でローブを被った人物――おそらくクロノス――を見たことを覚えていた。
「…あそこ…もう一度見る」と呟き、王都の服屋が並ぶストリート近くの路地裏へと向かった。
ミリアには「少し散歩してくる」とだけ伝え、彼女を心配させないようにしていた。
リリィの白いワンピースが石畳に擦れる音が静かに響き、白銀の髪が陽光に輝いていた。
紫の瞳は無表情だが、鋭い直感が彼女を導いていた。
路地裏に一歩踏み入れると、空気が一変した。薄暗い路地にはゴミが散乱し、酒の匂いが漂っていた。
そこかしこに人がいたが、皆どこか様子がおかしかった。
こちらを睨みつける者、目が虚ろで何かの影響を受けているような者たちが壁に寄りかかっていた。
リリィが「…変な場所」と呟き、スコップを握る手に力を込めた。
彼女の直感が、何か危険なものが潜んでいることを感じ取っていた。
路地裏を進むリリィの前に、数人の男たちが立ち塞がった。男たちは汚れた服を着て、酒瓶を手に持っていた。
リーダー格の男が「へえ、こんなところにお嬢ちゃんが何の用だ?」と下卑た笑みを浮かべ、リリィを見下ろした。
リリィは小柄で幼い容姿だったが、白磁のような白い肌と紫の瞳が気品を感じさせ、男たちの興味を引いた。
リリィが無表情で「…人探し。ローブを被った人…最近来た人、いる?」と淡々と質問した。
男たちが顔を見合わせ、ニヤニヤしながら「ローブの奴なら知ってるぜ。だがな、ただで教えるわけにはいかねえ」と答えた。
リーダー格の男が「お嬢ちゃん、俺たちに何か見返りをくれよ。たとえば…少し話をしようぜ」と言い、仲間たちと笑い合った。
リリィが「…見返り…何?」と呟くと、男が「お前みたいな可愛い子がこんな路地裏に来るなんて珍しい。少し遊ばせてくれよ」と言い、仲間たちが「そうだそうだ!」と囃し立てた。
リリィは男たちの言葉に動じず、無表情のまま状況を分析した。「…情報をくれるなら…話す」と呟き、男たちに近づいた。
彼女の心は冷静で、男たちの下心など理解していなかったが、情報を得るためには多少の我慢が必要だと判断した。
男たちが「お、いい子だな!」と笑い、リリィを囲んだ。リーダー格の男が「ローブの奴なら、最近この路地裏の奥にある廃屋によく出没してるぜ。夜になると姿を見せる」と話し始めた。
リリィが「…廃屋…どこ?」と尋ねると、男が「この路地をまっすぐ行って、突き当たりの古い家だ。ボロボロの木造で、誰も近づかねえ」と答えた。別の男が「そいつ、いつもローブを被ってて、顔が見えねえんだ。怪しい奴だぜ」と付け加えた。
リリィが「…ありがとう」と呟き、踵を返そうとしたが、男たちが「待てよ、お嬢ちゃん。まだ話は終わってねえ」と彼女の腕を掴んだ。
リリィが「…情報、聞いた。もう行く」と呟き、腕を振りほどこうとしたが、男たちが「せっかく仲良くなったんだ。別の場所で続きをしようぜ」と笑い、リリィを離さなかった。
リリィの紫の瞳が一瞬鋭く光り、「…ミリアのところ…帰りたい」と呟いた。彼女の心に、ミリアの笑顔が浮かんだ。
男たちが「何だよ、ミリアってのは誰だ? 俺たちじゃ不満か?」と笑い、リリィをさらに囲んだ。
リリィが「…邪魔」と呟き、スコップを手に持った。男たちが「お、おい、何だそのスコップ!?」と驚く中、リリィが無表情で「…離して」と呟き、リーダー格の男の腹にスコップの柄を叩き込んだ。男が「グハッ!」と呻き、膝をついた。
別の男が「てめえ、何しやがる!」と叫び、リリィに殴りかかってきたが、リリィが身をかわし、スコップで男の足を叩いた。男が「イテェ!」と叫び、地面に倒れた。
残りの男たちが「このガキ、ただもんじゃねえ!」と叫び、一斉にリリィに襲いかかったが、リリィの動きは素早かった。彼女がスコップを振り回し、男たちの腕や足を次々と殴打した。「…ミリア、待ってる」と呟きながら、リリィの紫の瞳は無感情のままだった。
男たちは次々と気絶し、路地裏に倒れ込んだ。
リリィが「…終わり」と呟き、スコップを肩に担ぎ、その場を後にした。
リリィは王都であてがわれた家に戻った。
家に入ると、ミリアが「リリィちゃん、遅かったから心配したんだから! どこに行ってたの?」と駆け寄った。
リリィが「…路地裏。情報、集めてきた」と呟き、ミリアの手を握った。
ミリアが「リリィちゃん、すごいね! でも、一人で危ないところに行っちゃダメだよ」と言い、リリィが「…ミリア、ごめん。でも…情報、必要」と呟いた。
二人が暖炉の前に座ると、リリィが集めた情報を話した。
「…ローブの人、路地裏の奥の廃屋にいる。夜、出る」と淡々と報告した。
ミリアが「廃屋…? クロノスかもしれないね。よくやったよ、リリィちゃん」と笑い、リリィが「…ミリア、褒めてくれて…嬉しい」と呟き、無表情のままミリアの肩に寄りかかった。
その時、レオンとガルドが家に戻ってきた。
レオンが「ミリア、リリィ、調査はどうだ?」と尋ねると、ミリアが「リリィちゃんがクロノスらしき人物の居場所を突き止めてくれたの。路地裏の廃屋にいるみたい」と報告した。
ガルドが「さすがリリィだな! どうやって調べたんだ?」と笑うと、リリィが「…路地裏の人に…聞いた」と呟き、男たちとのやり取りは伏せた。彼女はミリアに心配をかけたくなかった。
レオンが「廃屋か…。クロノスなら、罠を仕掛けている可能性が高い。夜に全員で向かおう」と提案し、一行は新たな戦いに備えた。リリィが「…ミリア、一緒なら…怖くない」と呟くと、ミリアが「うん、私もリリィちゃんと一緒なら頑張れるよ」と笑った。二人の絆はさらに深まり、クロノスとの戦いに向けて一行は動き始めた。




