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第二十話


魔王討伐の旅の途中で休息を求める勇者一行は、交易都市「ルミナス」に数日間滞在していた。街は活気に満ち、商人や旅人だけでなく、街の安全を守る騎士団も駐留していた。

彼らは鍛え上げられた戦士たちで、魔物退治や治安維持に日々励む誇り高き集団だった。

一行が街に到着した噂はすぐに広まり、騎士団の間でも「魔王に挑む勇者たち」の話題で持ちきりになっていた。


その日、勇者レオンと戦士ガルドは、騎士団の訓練場に招かれていた。騎士たちから「ぜひ手合わせをお願いしたい」と熱心な申し出があり、二人は快く応じた。

レオンは「旅の息抜きにちょうどいいな」と笑い、ガルドは「俺の腕っぷしを見せてやるぜ」と意気揚々と訓練場に向かった。

魔法使いミリアは「怪我しない程度にね」と見守る姿勢を決め、リリィは特に何も言わず、ただ一行の後ろをついて行った。彼女の手には「魔斬りの刃」がスコップの形のまま握られ、狩猟刀は腰に差されている。

訓練場は広々とした土の広場で、周囲には騎士団員や見物人が集まっていた。

最初にレオンが騎士団の若手と対峙し、剣技を披露する。

鋭い剣さばきと的確な動きで相手を圧倒しつつも、手加減を加えて見事な試合を演出した。見物人からは拍手が沸き、騎士たちは「さすが勇者だ」と感嘆の声を上げた。

次にガルドが登場し、巨漢の騎士と戦斧をぶつけ合う。力と力のぶつかり合いは迫力満点で、地面が震えるほどの衝撃を響かせた。ガルドが勝利を収めると、騎士たちは「まるで怪物だ!」と笑いながら称賛した。


その様子を、少し離れた場所からリリィが静かに見ていた。

彼女の瞳は虚ろで、感情の欠片も映さない。ただ、手合わせの動きや武器の音をじっと観察しているようだった。

その視線に気づいたのは、騎士団長のバルドリックだった。

彼は40代の屈強な男で、銀色の鎧に身を包み、威厳ある佇まいを誇っていた。

リリィを一瞥し、幼い少女のように見えるその姿に軽い遊び心を覚えたのだろう。

「お嬢ちゃんも見てるだけじゃつまらないだろう? 少し遊んでみるか?」

と笑いながら近づいてきた。


レオンが「いや、彼女は――」と制止しようとしたが、リリィが無言で前に出る。

バルドリックは木刀を手に持ち

「ほら、怖がらなくていい。軽く手合わせだ」

と言い、リリィにも木刀を渡した。

彼女はそれを無表情で受け取り、構える。

騎士団員たちが「団長、子ども相手に本気出す気か?」と笑いものびやかな雰囲気が漂う中、試合が始まった。


バルドリックが軽く木刀を振り下ろす。リリィは一瞬で横に滑り、返す刀で彼の脇腹を叩いた。

「おっと!」と団長が驚き、次の瞬間、リリィが一歩踏み込んで木刀を首元に突きつける。

動きは流れるように速く、正確だった。広場が静まり返り、バルドリックが

「…やるな、お嬢ちゃん」と苦笑する。

だが、リリィは無感情に木刀を下ろし

「終わり?」とだけ尋ねた。

「いやいや、まだだ!」とバルドリックが気を取り直し、再び構える。

今度は本気を出したのか、彼の動きが鋭さを増す。だが、リリィはそれを軽々と躱し、木刀で膝裏を叩き、団長を膝をつかせた。

さらに背後を取って肩を軽く叩き、「これで終わり?」と再び尋ねる。

バルドリックは額に汗を浮かべ、「参ったな…完全にやられた」と笑いながら立ち上がった。見物人からはどよめきが上がり、「団長が負けたぞ!」「あの小娘、何者だ?」と声が飛び交う。


その様子を見ていた騎士団員の一人、若手のエリックが「俺が相手だ!」と名乗り出た。

彼は木刀を手に、リリィに挑む。

だが、結果は同じだった。エリックが振り下ろした木刀をリリィが軽く受け流し、一瞬の隙をついて胸元を突く。

エリックはよろめき、「何!?」と驚愕の声を上げる。

続けて別の騎士が「次は俺だ!」と立ち上がり、次々と挑戦者が現れた。

リリィは無表情のまま、連戦をこなした。

一人目、二人目、三人目――騎士たちは次々と木刀を手に挑むが、誰も彼女に一撃を当てることはできなかった。

彼女の動きは機械的で無駄がなく、まるで相手の攻撃を予見しているかのようだった。

木刀が空を切り、リリィの反撃が的確に決まる。騎士たちは膝をつき、息を切らし、呆然と彼女を見つめるしかなかった。

十人目の騎士が倒れた時、訓練場は異様な静寂に包まれた。

騎士団員たちは汗と土にまみれ、リリィは微動だにせず立っていた。木刀を握る手には力が入っておらず、彼女の呼吸すら乱れていない。

バルドリックが苦笑しながら近づき、

「お嬢ちゃん…いや、リリィ殿と呼んだ方がいいな。俺たちの完敗だ」

と頭を下げた。騎士たちも「信じられん…」「あんな子にボコボコにされるなんて」と呟きながら、悔しさと驚嘆が入り混じった表情を見せる。

レオンが「だから言っただろ。彼女は俺たちの大事な仲間だ」と笑い、ガルドが「ははっ、見事なもんだぜ、リリィ!」と肩を叩こうとしてやめた。

ミリアは静かに微笑み、「リリィの強さは見た目じゃわからないものね」と呟く。

リリィは木刀を地面に置き、「これ…遊び?」と首を傾げた。その声には感情がなく、ただ事実を確認するような響きしかなかった。

バルドリックが「遊びどころか、俺たちの誇りを砕かれたよ」と冗談めかして言うと、騎士団員たちが笑い始めた。リリィはその笑い声を聞きながら、何かを感じたのか、じっと彼らを見つめる。彼女にとって戦いは「正しいこと」を証明する手段であり、遊びという概念はまだ理解しきれていなかった。だが、騎士たちの屈託のない笑顔が、彼女の胸に微かな波紋を広げたようにも見えた。

その夜、騎士団は勇者一行を囲んで酒宴を開いた。

騎士たちは「リリィ殿にやられた話」を肴に盛り上がり、彼女をからかいつつも敬意を込めて接した。

リリィは黙って酒杯を手に持つが、飲まずにただ眺めていた。

レオンが「今日はお前が主役だな」と言うと、彼女は「そう?」とだけ答える。ガルドが「次はお前と手合わせしたいぜ」と笑い、ミリアが「ほどほどにね」とたしなめる。

休息の日々は終わりを迎え、一行は再び旅立つ準備を整えた。出発の日、バルドリックがリリィに近づき、「また街に来たら、手合わせを頼むよ。今度は負けないように鍛えておくからな」と笑った。

リリィは無表情で頷き、「わかった」とだけ言った。

スコップを手に持つ彼女の背中を見送りながら、騎士たちは「次は勝つぞ」と意気込む。


街を後にする道すがら、リリィは木刀での手合わせを思い返していた。騎士たちを倒すことは彼女にとって自然な行為だったが、彼らの笑顔と敗北を認めつつも前を向く姿が、彼女の心に何かを残した。

「強さとは何か」と彼女は自問する。魔王を倒すため、そして自分自身の異常性を超えるため、旅は続く。

その答えがどこかにあると信じて。 


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