第十五話
魔王を倒す旅の途中、勇者一行は休息を取っていた町で新たな情報を得た。
「魔王の仲間が魔物が生息する森に潜んでいる」
という噂だ。レオンが
「確かめる必要がある」
と剣を手に立ち上がり、ガルドが
「面白え! 魔物狩りだぜ!」
と大剣を担いだ。ミリアが「気をつけてね」と杖を握り、リリィは無言で二本の狩猟刀を手に持った。
一行は町を後にし、魔物の咆哮が響く森へと足を踏み入れた。
木々が密集し、薄暗い森の中を進む一行は、慎重に奥へと向かった。
森の奥に差し掛かった時、魔物の群れが襲いかかってきた。狼のような体に鋭い爪を持つ魔物が、数匹で一行を囲んだ。
レオンが剣を振るい、ガルドが大剣で切り裂き、リリィが狩猟刀で瞬時に敵を屠った。
ミリアは癒しの魔法でサポートし、戦闘は短時間で終わりを迎えた。
魔物の死体が地面に転がり、ガルドが
「楽勝だったな!」と笑った瞬間、異変が起きた。森の奥から蔦のような触手が音もなく伸び、リリィの体に巻きついた。
「リリィちゃん!」
ミリアが叫んだが、触手は彼女を素早く引きずり、森の奥へと消えた。
レオンが「追うぞ!」と剣を構え、一行はリリィを追いかけた。
森の奥に進むと、開けた空間にたどり着いた。
そこには魔王の仲間——緑色の皮膚を持つ魔術師が立っていた。
長いローブをまとい、杖を手に不気味に笑うその後ろに、リリィがいた。
触手が彼女の体に巻きつき、木に吊り下げられている。
リリィの体が触手に締め上げられ、彼女の白い肌が露わになっていた。
触手からは謎の粘液が染み出し、リリィの体に塗りたくられていた。
その上を触手が蠢くたび、普段感情を表さないリリィの表情が歪み、今まで聞いたことのない甘い矯声が漏れた。
「んっ…あぁ…」彼女の声は小さく震え、紫の瞳が虚ろに揺れていた。
ミリアが「リリィちゃん!」と叫び、レオンが「てめえ、何をした!」と魔術師に剣を向けた。
魔術師が哄笑を上げた。
「この触手は感度を高める毒を持つ。感情のない子でも、これには耐えられまい!」
触手がリリィの腕や脚を締め付け、粘液が彼女の肌に染み込むたび、リリィの体がビクビクと震えた。
彼女の口から漏れる声は、甘く切なく、一行には衝撃だった。
ガルドが「ふざけんな!」と大剣を振り上げ、戦いが始まった。
レオンが魔術師の魔法を剣で切り裂き、ガルドが触手を叩き潰そうとしたが、魔術師の暗黒魔法が二人を阻んだ。
ミリアはリリィを助けようと近づいたが、触手が彼女を弾き返した。
戦いは長引き、一行は疲弊していった。
リリィは触手に吊られたまま、意識が朦朧としていた。
粘液の毒が彼女の体を侵し、普段感じない感覚が押し寄せていた。
嫌悪感と快楽が混じり合い、彼女の心を乱した。
「嫌…なのに…体が…」彼女の小さな声が漏れ、感情が薄いはずの彼女が初めて「怖い」と感じていた。触手の動きが止まらず、彼女の体は意に反して反応し続け、甘い声が止まなかった。
一行は必死に戦い、ミリアが癒しの魔法で援護し、レオンが魔術師の隙を突いて剣を突き刺した。ガルドが最後の触手を切り裂き、魔術師が絶叫と共に倒れると、辛勝した。
魔術師が死に、リリィに巻きついていた触手が消えた。彼女の体がドサリと地面に落ち、ミリアが急いで駆け寄り、抱き上げた。
「リリィちゃん、大丈夫!?」ミリアの腕の中で、リリィの体は震え、粘液に濡れた肌が冷たかった。
ミリアは急いで治癒の魔法をかけ、光がリリィを包んだ。外傷が癒え、体内に残る感度を高める毒が消えると、リリィの目がゆっくり開いた。
彼女はミリアの顔を見て、突然小さな腕を伸ばし、ミリアに抱きついた。
「ミリア…」その声は小さく震えていた。
ミリアが「リリィちゃん、どうしたの?」と優しく尋ねると、リリィは顔をミリアの胸に埋め、呟いた。
「嫌だった…体が勝手に気持ちよくなって、ビクビクして…怖かった。」
その言葉に、ミリアは目を丸くした。感情が薄いはずのリリィが、初めて恐怖と快楽を口にしたのだ。
彼女の小さな体がミリアにしがみつき、微かな震えが伝わってきた。
ミリアはリリィの銀髪を優しく撫で
「もう大丈夫だよ。あんな怖い目に遭って…よく耐えたね」
と慰めた。
リリィの震えが少しずつ収まり、彼女は「ミリアが…助けてくれた」と呟いた。ミリアが「うん、私たちみんなでね」と微笑むと、リリィの瞳に微かな安心が宿った。
レオンとガルドが近づき、レオンが「無事か?」と尋ねた。ミリアが「うん、毒は消えたよ。少し怖がってたけど…」と答えると、ガルドが「リリィが怖がるなんて珍しいな。触手なんてぶっ潰してやるぜ!」と笑った。リリィはミリアの腕から離れ、立ち上がった。彼女の表情はまだ少し硬かったが、すぐにいつもの無感情な顔に戻った。
「平気…もう怖くない」と呟き、狩猟刀を拾った。ミリアはリリィの背中を見つめ、彼女の精神的回復の速さに驚きつつ、安堵した。触手の試練はリリィに新たな感情を刻んだが、仲間との絆がそれを癒したのだ。
一行は森を抜け、旅を再開した。レオンが「魔王の仲間が減った。次は本丸だ」
と剣を握り、ガルドが「リリィ、触手なんかに負けんなよ!」と肩を叩いた。ミリアはリリィの手を取り、「何かあったらすぐ言ってね」と優しく言った。リリィが「うん」と頷くと、その小さな手に微かな力が感じられた。触手の毒が引き出した快楽と恐怖は、彼女の心に一瞬の波を起こしたが、ミリアの温もりと仲間たちの支えがそれを静めた。リリィは紫の瞳で前を見据え、「強く…生きる」と呟いた。老夫婦の教えを守り、感情の揺れを乗り越えた彼女は、再び旅路を進んだ。
森の奥での戦いは、リリィに初めての感覚と恐怖をもたらした。だが、それは彼女を壊すどころか、仲間との絆を深め、人間らしさを引き出した。一行は魔王の城へと近づき、リリィの小さな背中には、新たな強さが宿っていた。