表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/74

第十三話


魔王を倒す旅の途中、勇者一行は迷宮を抜けた後、立ち寄った町で休息をとっていた。


宿屋の暖炉が部屋を温め、窓からは夕陽が差し込む中レオン、ガルド、ミリア、そしてリリィは木製のテーブルを囲んでいた。

リリィは白いワンピースと青いベストを着て、銀髪をミリアに結ってもらったばかりだった。

彼女の紫の瞳は無感情に暖炉の炎を見つめ、小さな手にはホットミルクの入ったマグカップが握られていた。

クピクピと年相応に可愛らしく飲む姿が、旅の疲れを癒す一コマとなっていた。

その時、ガルドがリリィの腰に下げられた二本の狩猟刀に目を留めた。長さ40cmほどの刃は、町の鍛冶屋で購入してから幾多の戦いを切り抜けてきた。魔物の群れ、盗賊団、迷宮での戦闘——そのどれもが激しいものだった。

「なあ、リリィ。お前の狩猟刀、そろそろメンテナンスが必要なんじゃねえか?」

ガルドが大剣を磨く手を止め、彼女に近づいた。リリィはミルクを飲みながら無言で頷き、腰から刀を外してガルドに渡した。

「うん。見てて。」

その声に感情はほとんどなかった。

ガルドは狩猟刀を手に取り、刃をじっくり観察した。革巻きの柄は使い込まれているが、刃自体に傷や欠けがない。

血や汚れが付着したはずなのに、まるで新品同様の輝きを放っている。

「何!? おい、これ…おかしいぞ!」

ガルドが目を丸くして叫んだ。

「どうした?」

とレオンが鋭い目で振り返り

「何かあったの?」

とミリアも心配そうに近づいた。

ガルドは狩猟刀をテーブルに置き

「見てみろよ。こいつ、俺たちが買った時と変わらねえ。新品みたいだぜ!」

と驚きを隠せなかった。

レオンが刀を手に取り、刃を光にかざして確認した。確かに、鋭い切れ味と輝きは購入時と変わらない。戦いで使い込まれたはずの刃に、摩耗の跡すらない。

「確かに異常だ。鍛冶屋の親父が言ってた耐久性以上の何かがある」

と冷静に呟いた。ミリアが杖を手に近づき

「私も見てみるわ」

と言い、癒しの魔法を応用した探査術を刀に施した。淡い光が刃を包み、ミリアの眉が微かに動いた。

「…この刀、微かに魔力が宿ってる。それも、リリィちゃんの魔力と同じ波長…。」

その言葉に、一同の視線がリリィに集まった。


リリィは無表情のまま、クピクピとホットミルクを飲んでいた。マグカップを両手で持ち、小さな口でミルクを味わう姿は、幼い少女そのものだった。ガルドが

「リリィ、お前…何!? 刀に魔力かけてんのか?」

と驚きの声を上げると、リリィはカップをテーブルに置き

「ううん、わからない」

と首を振った。ミリアが優しく尋ねた。

「リリィちゃん、刀をどうやって使ってるか、感じることある?」

リリィは少し考えて

「ただ…持ってる。戦う時、軽い」

と答えた。その無垢な返答に、ガルドが

「軽いって…それだけかよ!」

と笑い、レオンが

「彼女の魔力が影響してる可能性がある」

と考察を始めた。

ミリアがリリィの横に座り

「前に浴場で調べた時、リリィちゃんの体内に魔力があるってわかったよね。あの力が、刀に流れ込んでるのかも」

と提案した。レオンが頷き

「ホムンクルスと人間のハーフなら、魔力が自然に漏れ出てる可能性はある。刀がその影響を受けて、自己修復してるのかもしれない」

と補足した。ガルドが目を丸くして、

「自己修復!? そんな刀、聞いたことねえぞ! リリィ、すげえな!」

と豪快に笑った。リリィは無表情のまま、

「すげえ…?」

と呟き、再びミルクをクピクピと飲み始めた。

ミリアはリリィの手を取り、

「リリィちゃん、あなたの魔力って特別だよ。魔法を使える才能もあるし、刀にまで影響してるなんて…」

と驚きを隠せなかった。レオンが刀を手に持ったまま

「この魔力、制御できれば武器としてさらに強くなる。だが、無意識に漏れてるなら、リリィ自身が気づいてないだけだ」

と分析した。ガルドが

「つまり、リリィが持つだけで刀が新品のままってわけか! 便利すぎるぜ!」

と笑いながら肩を叩いた。リリィは叩かれた肩を少し動かし、

「便利…?」

と首を傾げた。

一同の驚きの雰囲気の中、リリィはホットミルクを飲み干し、空のマグカップをじっと見つめた。ミリアが

「もう一杯飲む?」

と聞くと、リリィがコクリと小さく頷いた。ミリアが立ち上がり、暖炉のそばでミルクを温め直す間、レオンがリリィに目を向けた。

「お前、魔力を感じたことないのか?」

リリィは少し考えて、

「戦う時…手が熱い。刀が軽くなる。それが…魔力?」

と呟いた。レオンが

「その感覚だ。無意識に使ってるんだろう」

と頷き、ガルドが

「熱いって、すげえな! リリィ、もっと魔法やってみろよ!」

と提案した。

ミリアが温めたミルクをリリィに渡し、

「リリィちゃん、あなたの魔力って、ホムンクルスの力と人間の血が混ざったものかもしれないね。それが刀を守ってるのかも」

と優しく言った。リリィはミルクを受け取り、クピクピと飲みながら「守ってる…?」と呟いた。ミリアが頷き、

「うん。あなたが刀を大事にしてるから、魔力が応えてるのかも」

と微笑んだ。ガルドが

「大事にしてるって、リリィ、刀に名前でもつけてんのか?」

と笑うと、リリィが

「名前…ない」

と答えた。ガルドが

「じゃあ、俺がつけようか!」

と冗談を飛ばし、レオンが「やめとけ」と冷静に制した。

その夜、リリィの狩猟刀を囲んで、一行は彼女の魔力について話し合った。レオンが「リリィの魔力が刀に影響してるなら、魔王との戦いでさらに役立つ。制御を覚えさせたい」と提案すると、ミリアが「私が教えるよ。リリィちゃんの魔法、もっと引き出してみたい」と意気込んだ。ガルドが

「魔法も刀も最強のリリィ、魔王がビビるぜ!」

と笑い、リリィは無表情のまま「ビビる…?」と呟いた。一同が笑い合う中、リリィはホットミルクを飲み続けていた。クピクピという音が部屋に響き、彼女の無垢な姿が驚きの雰囲気を和ませていた。

翌朝、一行は町を出発する準備を整えた。リリィは狩猟刀を腰に下げ、ミリアが「刀、大事にしてね」と言うと、「うん」と頷いた。レオンが「魔力を意識してみろ。刀が応えるかもしれない」とアドバイスし、ガルドが「次は俺の大剣にも魔力かけてくれよ!」と笑った。リリィは無表情ながら、ミルクを飲むような可愛らしさで「うん…やってみる」と答えた。彼女の魔力が刀を新品同様に保つ謎は、ホムンクルスの起源と人間の意志が交錯した結果だった。旅の中で、その力がさらに開花する兆しを見せていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ