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玉の輿  作者: yukko
8/11

働きたい

ふと気付くと夜が白々と明けていく。

昔を思い出して眠れない夜を過ごしてしまっていた。

蒲鉾板の位牌は、最初、鉛筆で「水子供養」と書いただけだった。

その後、秀樹が小学校で使っている彫刻刀を借りて「水子供養」と書いた文字を掘り、蒲鉾板の裏に私が考えた名前を入れた。

裏を見る度に、その名前で良かったのか…と思う。


「ねぇ、美智子ちゃん。」


当時の皇太子妃・美智子様のお名前を頂いたのだった。


家を出て一週間経った。

この家には電話も無いから、私は精神科への通院だけだ。

離婚届を置いて出たのに、通院費は夫が払ってくれている。

私は身勝手だ。

夫が働いて得たお金を使っている。家を出たのに……。

申し訳ないと思いつつも、働く先を探している。

職業安定所に通い始めたのだ。

出来ることが無い私は掃除の仕事をすることが一番だと思った。

今日こそは何とか仕事を得たい。

家を出て職安へ行き、「掃除でも無理でございますか?」と聞くと、「精神科に通っておられるので……医師のご判断で……。」という返事だった。

溜息が出た。


⦅先生が「ゆっくりして。」って言うて……。

 働かへんかったら生きて行かれへんのに……。

 うちは、あの人がおらんかったら、なんも出来へん。

 出来損ないや………。⦆


家に帰ってから涙しか出なかった。


⦅もう、このまま息絶えるしかないんかなぁ……。

 もう、どないでも、ええなぁ……。

 もう、薬も止めよ。病院も、もう行かへん。

 この家の家賃、払われへんようになったら出て行こ。

 お父ちゃん、お母ちゃんと暮らしたあの家の近くで死にたいなぁ……。

 お父ちゃん、お母ちゃん、堪忍え。

 大事に育てて貰うたのに……。

 親孝行の一つも出来へんかった。堪忍。

 親の死に目にも会われへんかった。親不孝のうち……。堪忍え。⦆


涙が頬を伝わって流れ落ちて行く。

財布の中のお金を見る。

まだ、お金はある。

2か月間のお金はある。


この家は前のアパートを出ると決めた時に探して、アパートに置いてある物を運んでおいた。

その頃は、川口家の財布を持っていたから、全てそのお金で賄った。

敷金なども問題なく払えた。

家を出る時、何も持って出ないことを決めていた。

それが私の矜持。

働く先が決まるまでの間のお金を私名義に作った通帳に入金して……そして、家を出た。

このお金が潰えたら、私は死ぬしかなくなる。

それで、いいかもしれないと思った。

もう本当に終われるから………。


二つの位牌を胸に抱いて泣いている時、チャイムが鳴った。

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