お茶会
呼ばれた時間に応接室に行くと、もうソファーに何人も座っていた。
多くの眼が私を突き刺すような鋭い視線を送って来た。
怖かった。足が竦んだ。
何も言えずに立ち尽くしてしまった。
「皆様、ホンマに申し訳ございません。
惣一に嫁いできた嫁が……こんな非常識な人間で……。」
「ホンマに大変でございますわよねぇ。
工場で働いていた子やなんて……ねぇ……。」
「いつまで突っ立ってるんですか! 早くご挨拶なさい。」
「あ……初めまして。綾子です。」
「遅れたお詫びは? 早うお詫びなさい。」
「遅れた?……あの、う……私は……。」
「9時にと言いましたやろ。」
「嘘っ! あ!……。」
「まぁ、お聞きになりはりました?
川口家はホンマに大変やわぁ。
姑に向かって、今、なんて言いはりました? あなた。
嘘、って言いはったわね。嘘って……。」
「済んまへん。」
「まぁ、どちらの言葉? 済んまへんって……。」
「申し訳ございません。教えましたんや。
けど……ねぇ、何しろ育ちが……ねぇ……
嫁の不始末は、姑の私の不始末でございます。
お詫び致します。」
「お義姉様が頭を下げてはるのに……嫁のくせに頭も下げんと……。
育ちのええ子を嫁の貰わなアカンということですわ。」
「ほんに、ほんに……おほほほ………。」
ただ、頭を下げ続けていた。
「綾子さん、お着物は?」
「はい?」
「これからお茶会やと言いましたやろ。
なんで、スーツですのや!」
「あ……す……申し訳ございません。」
「まぁ、今日は初めてやよって、それでええですわ。
ほな、皆さま、お茶室へ参りまひょ。」
「はい。」
それからは、地獄だった。
茶道など何も知らない私は、指の動き一つ窘められた。
全て家の格の違い、出自の悪さを指摘するためだったと今なら分かる。
でも、まだ19歳の私は耐えることが、たった一つの策だった。
これが長い間続いたのだ。