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玉の輿  作者: yukko
3/11

再会

阪急百貨店での出逢いの後、私はもう二度と会うことが無い人だと思っていた。

どう見ても工場で働いている私とは別の世界の人に思えたからだ。

綺麗な出逢いの想い出だけを胸に秘めておこうと思っていた。

あれは……確か、土曜日の工場の勤務が終わった時だった。

友達と一緒に工場を出た時、工場の門の前に……あの人が立っていた。


「綾ちゃん! 綾ちゃん!

 あの人や。阪急百貨店の君!」

「綾ちゃん、阪急百貨店の君、が居てはる。」


声も出なくて、足も動けなくなっていた。

目だけが、あの人を捉えて離さなかった。

その目に………あの人だけを映している目に、あの人がドンドン私に近づいてきて……あの人が大きくなっていった。


「こんばんは。小林綾子さん。」

「………………。」

「覚えていませんか? 綾子さんとは阪急百貨店でお会いしました。

 ……?……忘れてしもうた?」

「………いいえ、いいえ。」

「覚えてくれてはる?」

「……はい。」

「良かった。私一人と………。

 今から、お時間ありますか?」

「…………。」

「綾ちゃん、はい!って返事せな。」

「あ………はい。」

「ありがとう。ほな、ちょっとだけ……。」

「はい。」

「綾ちゃん、行ってらっしゃーい!」

「綾ちゃん、さいなら~。」


歩きだしてから後ろを振り返って友達に手を振って「行ってきまぁ~す。……さいなら。」を言った。

そんな私を、あの人は微笑んで見ていた。

その時の笑顔を私は今も覚えている。


あの日、そう……あの人は私を夕食に誘ってくれた。

工場から車で近くまで行ったのだった。

自家用車に乗ったことがなかった私は、川口家の大きな自家用車に驚いた。

車を運転する人も川口家で運転手をしている人だった。

生まれて初めて入った洋食屋だった。

何を注文すればよいのか分からずに居たら、あの人は注文をしてくれて……。

出されたお料理の食べ方も分からなかった。

ナイフとフォークの使い方も、本当に何もかも知らなかった。

知らない私に、あの人は優しく教えてくれて……教えてくれる時も優しい笑みだった。

食事が終わって、家の近くまで車で送ってくれた。

家を知られたくないと思っていた私に、あの人は聞いたと思う。


「また会うて欲しいんです。

 電話番号、教えてください。」

「……うちは貧乏で……家に電話……ありません。」

「!………済みません。知らなくて……。

 でも、会いたいさかい。連絡を取りたいんや。嫌かなぁ…。」

「うちと?」

「うん。綾子さんと! また、会うてくれる?」

「うちで良かったら……けど、ご飯を奢ること出来へん。今日も……。」

「奢って欲しいなんて、思うてないよ。私が奢りたいんや。」

「ホンマに……ええんですか?」

「うん。一緒にご飯食べて貰えるかな?」

「はい!」

「ほなら……また、今日みたいに会社の門の前で待ってても、ええかな?」

「はい。」


そう言って見せた微笑みも私は今も覚えている。

あの人の笑顔は何一つ忘れられない大切な想い出………。


⦅あの頃は夢の中やった。

 美しくて楽しい夢の中。 けど、夢は醒める。

 そして、夢の儚さを知るんやなぁ………。⦆


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