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玉の輿  作者: yukko
10/11

長男の嫁

あの人が訪れてから3日程して、長男の嫁・浩子さんがやって来た。

浩子さんは今、そのお腹の中に秀樹の子を宿している。

二人目の子を……。


「なんもお構い出来へんわ。」

「そんな、お義母さん。気にせんといて下さい。」

「お腹は?」

「はい。順調です。」

「そうやの。良かったね。

 安定期やけど、気を付けてね。」

「はい。ありがとうございます。」

「ほんで? なんで来はったの?」

「……そう思いますよね。」

「普通はね。……ほんで? 用件は?」

「実はご報告があるんです。」

「報告?」

「はい。お父さん……あの…秀樹さんと話し合って……

 秀樹さんが会社を継ぐと決めました。」

「秀樹が! なんでなん。継がせたないから名前から就職も……。」

「はい。ご両親のお気持ちは理解してます。」

「浩子さん、秀樹に会いますよって。」

「お義母さん、落ち着いてください。」

「これが、落ち着いてなど要られ……。浩子さん。」

「はい。」

「貴女、社長夫人になるちゅう意味、分かってはりませんやろ。」

「はい。分かってないと思います。」

「はぁ~~っ、アカン。アカンのや。」

「お義母さん、落ち着いてください。」

「浩子さん、これから言う話をよぉ聞いて。」

「はい。」

「貴女も私も、玉の輿 や。」

「はい。そうですね。」

「玉の輿……ううん。浩子さんの年やったらシンデレラ!

 シンデレラのお話の方が分かりやすいかもしれんわ。

 浩子さん、シンデレラは王子様に見初められて……

 愛し合って結婚して、そこでお話は終わりやったよね。」

「はい。」

「けど、結婚して終わりやないんやわ。

 それからが始まりなんや。

 一国の王子様が、将来、国王になるお方が掃除洗濯してた子を……

 妃に迎えて、それで外交とかやりますの?

 あのお話は結婚して目出度しめでたしで終わりやけど……。

 それからは、地獄が待ってたかもしれへんのやよ。

 それには全く触れんと……幸せになりましたとさ……けったいな話や。

 川口の会社は大きないけど……小さくも無いねん。

 川口惣兵は、松下幸之助みたいな大きな存在やないわ。

 阪急電車、阪急百貨店、阪急ブレーブス、宝塚歌劇を作った小林一三には…

 足元にも及ばん。そんな存在や。

 関西の大物の二人には遠い存在やけど……それなりに時を経て来た会社やねん。

 そやから、社長夫人も簡単やない。

 シンデレラは不幸やったかもしれへんの。

 分かる? うちが言いたいこと……。」

「はい。お義母さんの優しい想いが溢れた……お話です。

 ありがとうございます。

 でも、私、気張ります。

 秀樹さんの隣に居たいんです。ずっと………。

 努力もします。秀樹さんに相談もします。話し合います。

 それで乗り越えたいんです。」

「偉いねぇ……浩子さんは……。」

「お義母さん?」

「秀樹は幸せな子やね。……あの子のこと……

 これからも宜しゅうお願い申し上げます。」


私は三つ指ついて頭を下げてお願いした。長男の嫁・浩子さんに……。

浩子さんを見送って……私は考えた。

時代は変わっていくのかもしれない。

もう長男の嫁だから同居している家は少なくなっている。

これからは……夫婦でどれだけ話し合い理解しあうか……それが今までよりも求められるのかもしれない。

家の格も考えなくてよい日も来るのかもしれない。


⦅あの人……今日も来はるんかな?

 毎日、来はる………。

 あの家は地獄やった。

 けど、あの家には学が待ってる。

 あの家を秀樹夫婦に譲る日が来るんやなぁ……。

 その日まで、あの人が育ったあの家を守るのは……私だけなんかな?

 あの人と一緒に最期の日まで居るって決めたのは……若い日の私やった。⦆

 

⦅これからも若い女の子は憧れるんやろねぇ。シンデレラに……!

 結婚出来たら目出度しめでたしの安易なお話に……。

 齢を重ねた元玉の輿の……うちは……うちには……

 シンデレラは不幸にしか思われへん。

 どないな家にも家訓みたいなんがあって……

 嫁と姑は相容れられへん。けったいやけど事実や。

 それを乗り越えられるかどうかは……夫婦の絆なんやろね。⦆


玄関が開いて、あの人が入って来た。


「綾子、ただいま。」

「お帰りなさい。あなた。」

「どないした? スッキリした顔してるやん。」

「うふふ……。」

「なんやねん。急に笑うて……。」

「帰りましょか……。」

「?……どこへや?」

「うちらの家ですやん。」

「綾子? ええのんか?」

「あなたの居場所が、うちの居場所やと分かりました。」

「綾子!」

「今から帰っても宜しおますか?」

「ええに決まったある!」

「うちは……シンデレラやなかったわ。」⦅目出度し!やなかった。⦆

「シンデレラ? なんやそれっ。君は日本人やで。」

「そやね。」

「?」


アパートの少ない物は後日運ぶことにした。

あの人は大事そうに二つのお位牌を胸に抱いた。

そして、お位牌に向かって「さぁ、帰りまひょ。一緒に!」と言った。


若い日の私とあの人との恋は叶えられた。

けれども、それは始まりだったに過ぎなかった。

そして、私とあの人の二人の旅は最期の日まで続くのだ。

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