小心者、装備を整える
勇者探しの話を聞かされた翌日、私たちはとある商会に来ていた。
前日は聖女のこれはこれは素晴らしい説得もあり、特別に安い旅館に泊まることを許された。
私たちはわずかな手付金を手に武具をそろえる必要がある。
ここにいるのは、昨日勇者捜索の一因となるメンバーだ。
右から聖女様。
正式には元聖女で、ミラというのが本名のようだ。
昨日は彼女の暴れっぷりが酷かった。
聖女の位を剥奪され、自身の名誉を一晩で失った彼女は、八つ当たりをするかのように旅館内で駄々をこねていた。
今は落ち着いてはいるが、今夜も同じように駄々をこねて暴れるのだろうか・・・。
才先が思いやられるな・・・不安だ。
次は委員長タイプの落ち着いた雰囲気の女性。
名は柊薫という。
同姓同名である。
彼女はすごい人だ。
正面にいて彼女の表情を見ていなかったが、一言やめなさいと元聖女ミラに言うと、ミラは怯えた表情を見せて頷いていた。
怖い顔をしていたのだろうか。
イメージと違う・・・不安だ。
最後に自信満々のかっこいい騎士風の女性。
彼女も柊薫という。
彼女は実に落ち着いている。
ミラにも委員長タイプの彼女にも一切媚びず、常に堂々としていた。
彼女はたくましい・・・希望だ。
「ところで、今更ですけど呼び名を考えませんか?さすがに3人とも同名では分かづらいです」
「そうだな。私も同じことを考えていた」
勿論それは私もだ。
「なら、分かりやすく1、2、3でどうでしょう?」
この元聖女は何を言っているのだろうか?
「あらあら、もちろん私が1ですよね?」
「え?ええっ、も、もちろんあなたが1ですわ!」
あ、彼女笑顔が怖いタイプだ。
私と騎士風な薫さんも一歩後ずさったぞ。
「え、えっと、その案は良くないかと。番号では優劣がついている気がするし・・・」
「そ、そうだな。ちゃんと話し合って決めようじゃないか」
「そうですか・・・」
委員長ちゃんガッカリしないで!!
「ならもうあなたたちで決めてしまってくださいませ。私は寄る所があるので失礼いたします」
ミラさんは踵を返して行ってしまった。
「仕方ありませんね。彼女が戻ってくる前に決めてしまいましょう」
そして、1時間ほどが経ち、ミラさんは戻ってきた。
今までと服装が変わっている。
外用の動きやすい女性神官の服装だ。
ついでに目につく杖を持っている。
「それで、決まりましたの?」
「ああ、今しがた決まったところだ」
「そう。なら教えて下さる?あなたたちの新しい呼び名を」
「私は女騎士という名前になった」
あ、ミラさんの表情が死んだ。
「私は委員長です」
「私は薫です」
ミラさんはしばらく固まっていたが、硬直が解き慌てて口を開く。
「え?え?それでいいの?女騎士ってただの名称よ!あと、委員長ってなに?それとあなただけなんで薫のままなんですの?」
「だってそう決まったから・・・」
「その過程を知りたいのです!」
ミラさんは声を荒げる。
しかし、特に理由がないのだと知ると呆れる様子を見せる。
「あなた方がそれでいいなら構わないけれど・・・本当にそれでよろしいのですか?」
皆一様に頷く。
「分かりました。あとあなた」
ミラさんは私に目を向けた。
「なんでしょう」
「私呼び禁止。なんか違和感すごいから。今から僕か俺にしてくださる?」
「じゃあ俺で」
話がまとまったところで、ミラさんの装備に目が行く。
「あの、ミラさん?」
「ミラでいいわ。これから共に旅する仲間なのだから。私の薫って呼ぶわ。いいわね」
「はい。・・・それでその恰好なんだけど」
「別におかしなことじゃないでしょう?町の外に出るのだからちゃんとした恰好しないと」
「さて入るわよ」
ミラを先頭に商会に入って行った。
「さて、ここの中から好きな装備を選びなさい。特別に私が贈呈してあげるわ!」
少しずつ言葉遣いが変わっていくミラ。
こっちが素かな?
俺たちはあたりを見回す。
辺り一面武器や装備品、魔道具?がぎっしりだ。
好きなものをくれるなんて・・・そんな金はどこから?
「ミラ、お金あるの?」
「馬鹿にしないで。ちゃんと貰って来たわ!さっき!」
何故誇らしげにする・・・。
何はともあれお金があるなら遠慮なく買わせて頂こう。
俺は断らない男なのだ。
俺はまず武器から見る。
剣に槍に棍棒、ハルバードのある!
あ、鎌に刀もある。
日本人の転移者か転生者が過去にいたんかな?
私は刀を手に取る。
美しい・・・気がする。
重さはあるが鍛えれば問題なく振れるのでは?
刀を振ってみることにした。
「ふっ・・・・・・」
しかし、振る瞬間にその動きを止める。
「どうしたのよ?」
姿を見ていたのか3人がやってくる。
俺は冷や汗をかく。
「ちょ、ちょっと?」
「あの・・・刀を振って、すっぽ抜けて誰かの脳天に直撃するかもと考えたら・・・」
「「「考えたら?」」」
「振れなくなりました!」
「はあ!何あんた!?剣持てないってこと!?」
「剣どころか凶器全判持てません。怖いです・・・俺先端恐怖症・・・」
「ふっ、ふざけんじゃないわよぉ!!」
ミラの怒号が商会内を響き渡った。
そんなこんなありながらも、無事装備選びを完了。
一人一人別々のタイミングで購入したので、商会の入り口で顔見せとなった。
「・・・・・・・・・」
こちらを睨むミラ。
目を背ける俺。
「ねえ、薫?」
「な、なんでしょう?」
「その武器は何?」
「えっと・・・杖です」
ミラは一歩近づいてくる。
俺もそれに合わせて一歩後ずさる。
「私の武器は見えているかしら?」
「はい」
「言ってみなさい」
「杖です」
すうーっ
ミラは大きく息を吸い込む。
と同時に委員長と女騎士は耳を塞ぐ。
「ヒーラーは1人で十分よぉぉぉぉぉぉぉお!!」
「あなた私の恰好みれば普通ヒーラーだってわかるでしょ?ていうか、聖女って時点で察しろ!」
「いやー、俺も武器持ちたかったんだけど・・・怖くて」
「ふふふふふ、面白い人ですね」
「ほんと退屈しなさそうだな」
委員長と女騎士は仲良く話し込んでいる。
聞いていたミラの怒りは次に彼女たちに移る。
「あなた達もです。選んだ武器を言ってみなさい!」
「本です」
「盾だ」
「アタッカー!!!」
ミラはまくしたてる。
「どうして誰もアタッカーを選ばないのよ!盾はまだ百歩譲っても分かるわよ!けど本って何?」
ミラは委員長の抱えていた本をひったくる。
「これ魔導書でも何でもないただの白紙の本!!どうやってこれで戦うのよ?」
「戦いませんよ」
「え?」
「私は記録係をやります。あなた方の冒険をこの本に書き起こし、後世に伝えるんです」
委員長は愉悦に浸る。
「お、女騎士様は武器をお持ちですよね?まさか、盾だけってことは・・・ありませんよね」
恐る恐る尋ねる。
すると、女騎士は笑みを浮かべてこう答える。
「私は守りの騎士だ。よって私は剣を持つことを良しとしない」
聖女は顔を青ざめ、その場にうずくまる。
「こ・・・こ・・・こ・・・」
「「「こ?」」」
「このおバカさんたちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ミラの悲鳴がこだました。