小心者、何もできず状況を悪化させる
王都オクタニア。
初めて見た王都というものに私は目を奪われる。
まず目に入るのは聳え立つ王宮。
そして王都全体を囲む城壁。
王都全体を城に見立てて建てられたらしいこの王都は何者も崩せない無敵の要塞なのだとセラは力説する。
「ほえ~」
まだ距離があり丘の上からの長めなので内部も良く見える。
白一色で造られたこの王都は誰が見ても神聖だ、というであろう。
まさに壮観である。
馬車はゆっくりと丘を降り、王都へ向かう。
王都に到着した私が目にした光景は、とんでもないものだった。
王城から私を出迎えるかのように両脇に並ぶ夥しいほどの人。
私は恐れ多くなり、身動きが取れない。
「さあ、勇者様!行きましょう!」
セラが指をさす場所。
それは王城であった。
もちろん私の眼はこの瞬間死んだ。
道中私は必至で言い訳を考える。
どうしよう。私ホントに勇者なの?
違うよね?嘘って言って!
と言うか、違ったらどうなるの?
切られるの?
考えろ、まだ何とかなるはずだ・・・。
「あの、セラさん。一つお聞きしたいことが?」
「なんでしょう?私に何でも話してくだされ!」
「もし私が勇者出なかった場合どうなるのですか?」
セラはその言葉を聞いて固まる。
私は固まったセラを見て、不安に駆られる。
やべっ。不信感を与えるようなことを言ってしまった!
あまりこういうことを言っちゃダメだった!
「何を言っておられるのですか?あなたは正真正銘勇者でございます。なぜなら、あなたは信託の通りに光をまとって現れたのですから!」
あ、そうですか・・・。
なんか良く分かんなくなってきた。
不安を拭えないまま、私は王宮までたどり着く。
王宮にたどり着くと、門番をしていた衛兵が跪き、私にひれ伏す。
すると、王宮の扉が開き、一人の高貴そうな人間が現れる。
きれいな金髪をなびかせ、伸びた背筋はその者の自信が伺える。
衛兵は彼の登場に気付くと、ひれ伏したまま彼へ体を向ける。
「おはようございます」
衛兵は挨拶をすると彼は頷き、私に目線を合わせる。
「ようこそおいで下さいました勇者様。あなたのご尊顔を拝観できることを大変楽しみにしておりました」
私は見たくありませんでした。
「私の名前はドレット。国王の子息でございます」
皇太子じゃーん。
とんでもない人出てきた。
私不敬罪で殺されないかな・・・。
やばい緊張で気持ち悪くなってきた。
あとトイレ行きたい。
「あの、皇太子さま」
「私のことはドレットとお呼びください」
「ドレットさん、トイレ行きたいです」
「・・・」
私はドレットにトイレまで案内してもらった。
現在トイレの個室の中。
絶賛不安に押しつぶされそうな私。
皇太子にトイレ案内させてしまった!!
私勇者じゃなかったら、これ死刑じゃない?
このまま気絶してしまいたい・・・。
悩むこと15分程。
すっきりした私は開き直りトイレから出てくる。
私は皇太子を観察する。
もちろん不敬罪を許してくれそうな人かの確認だ。
・・・うん。分からん。
その後改めて王宮内部を進む。
目的地は玉座の間らしい。
王様・・・会いたくない。
セラさんは王宮内には入れない。
よって今は私とドレットの二人のみ。
会話がない・・・。
進むたびに色々な人に会う。
正装を着込んだお偉いさん??みたいな人、メイドっぽい人、執事っぽい人。
皆私とドレットに目を向けると頭を下げる。
もうやめてほしい。
何となく罪が上乗せされているような気がするから。
そして玉座の間の前に到着する。
衛兵が扉を開け、私はドレットとともに室内に入る。
室内にはすでに要人がそろっていた。
向かって正面、長い通路の先にいるのが王様なのだろう。
そしてそのそばに控えている数人の存在。
さらに通路の端に並ぶ人たち。
彼らも正装を着込み、私を見定めているように感じる。
私は正面の王様、そのそばで控えている女性と目が合う。
とても美しい女性だ。
思わず見とれてしまう。
しかし、その女性はすぐに目線をそらしてしまう。
見すぎて、嫌われてしまったかも・・・。
私はがっくりする。
ドレットは廊下を渡り、中央で止まる。
そして跪く。
私もドレットの真似をする。
「ドレットよ。ご迎えご苦労」
ドレットはひれ伏したまま、動かない。
王様は私に視線を向ける。
「そなたが勇者じゃな?」
「・・・」
私が言いよどむと、しだいにざわざわしだす。
「ん?」
王はドレットに目を向ける。
ドレットも私に目を向けて次の言葉を待つ。
「えっと、そうなのかもしれません」
??
静寂に包まれる。
皆疑問が浮かび上がったように首をかしげる。
視線を王に向けると、その隣の美しい女性に目が行った。
その女性は激しく狼狽しているように見える。
そわそわして口ががくがくしている。
流石に王様も気づいたのか女性に目を向ける。
「どうしたのじゃ聖女よ。このものが信託にあった勇者なのだろう?」
「え、えーっとー・・・」
聖女は言いよどむ。
「なんじゃ?もしかして違うのか?」
事態が変わったことを現すようにざわざわが大きくなる。
役人たちも隣のものと眼を合わせ、何やら話している。
「滅相もございません。この者が勇者で間違いございませぬー!!」
こいつなんか隠してるな・・・。
聖女の慌てっぷりは相当なもののように見える。
「なら問題ないな」
王様がこちらに向き直る。
おい聖女とやら。何ほっとしてんだ!
明らかに嘘ついただろ!
私は聖女と目が合ったように感じる。
とりあえずジト目を送っておく。
聖女は姿勢を正し、堂々とし始める。
開き直りやがった・・・。
「王様」
聖女が口を開く。
「なんじゃ」
「失礼ですが、勇者様はここまでの長旅で大変疲れているように思われます。これからの話は後日にするのはどうでしょうか?」
「そ、そうであるな。分かった。では明日。また話をするとしよう。ゆっくり休むがよい」
その後、メイドがやってきて私は玉座の間を後にする。
私はメイドの後をついていく。
付いた先は客人用の部屋のようだ。
「本日はこちらで過ごしてください。夕食はこちらで用意します。何かあればこちらでお呼びください」
メイドに魔道具・・・のようなものを渡される。
そして、メイドは部屋を後にした。
・・・・・・私は魔道具に目を向ける。
使い方知らないんだけど・・・。
とりあえずテーブルの上に置いておく。
私は部屋に目を向ける。
高級旅館のようだ。
大きなベッド・・・ダブル以上だ。
そして冷蔵庫の中・・・めっちゃ入ってる。
お風呂・・・ガラス張りやん。
テレビは・・・ある。
ただの高級旅館やん。
私は精一杯寛いだ。
「もし・・・もし・・・」
何か聞こえる・・・けど心地いい声、おやすみー。
その瞬間、頭部に衝撃が走り私は飛び起きる。
え?なに?襲撃?
「ようやく起きましたか」
声の主に目を開けると目の前にいたのは、聖女様であった。
聖女様はフライパンを片手に私を見下ろしている。
「こんな時間から寝るなんて、緊張感無いのですね・・・」
怒られてしまった・・・。
私はフライパンに目を向ける。
「なんでフライパン?」
「必需品です」
「誰の?」
私の突っ込みは空振りに終わる。
「お話があります。よろしいですか?」
私は首を縦に振る。
聖女様との1対1の会談が始まる。