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噂好きな女  作者: らすく
2/5

噂の男

(つまらない。)

 本当に毎日が暇で仕方がない。正確に言うと、俺は怠け者なのだ。実際に、やろうと思えばやることはいくらでもある。勉強、スポーツ、音楽などの芸術・・・。でも面倒くさい。それに別に自分に才能があるかどうかなのかも、全く興味がない。辛い努力をしてまで、自分の値打ちを上げようとは思わない。そんな調子だから俺は惰性で、この学校の授業を受けて休み時間は机にとっつぷしで寝ているのだ。

 (ん・・・。)

 背中を軽く叩かれた。仕方なく俺は顔を上げた。ゆっくりと渋々にだ・・・・。


 「あのさ。」

 なんだ、またこの女か。こいつは適当に、回りに話し掛ける。そしてよく分からない噂を広めるのが得意なのだ。この女は自分が流した噂で、実際の状況が変わるのを楽しんでいるのだ。実際にコイツの流布した噂により、別れたカップルもいるらしい。コイツは本当に悪趣味な女なのだ。


 どうもこの女の噂によると、学校周辺に変質者が現れるようになったらしい。まあこの女の言うことなど当てにはしていない。どうせ何か魂胆があっての事だろう。実際の他のクラスメートも眉唾としか、捉えていないであろう。ハッキリ言ってどうでもよいのだ。しかしこの時、誰も知る由がなかった。この噂の始まりが、地獄への扉だったと言うことを・・・。


 この日の放課後、いつも通りに俺は一人で下校していた。取り立てて友人と呼べる存在が、自分にはいないのである。しかし突然に只ならぬ雰囲気を感じ、俺は神経を尖らせたのであった。まあ最も、あの女の噂のせいでもあるのだが・・・。

 (ん?)

 背中を丸くしてい50代位の初老男の姿が見えた。正に「背むし男」とは、彼の事を言うのではないだろうか。クタクタになったワイシャツに、年期の入っていそうなスラックス。何故かベルトはしていない。その事がより一層に、この男のみすぼらしさを増しているのだった。一目見て、俺は感じた。この男が噂の不審者なのだろうか。しかしそう思ったところで、自分には何も出来ない。そもそもあの噂好きな女の言うことは当てならないのだ。いくら風体が怪しいとは言え、彼に声をかける訳にはいかない。その場をやり過ごし、そのまま俺は帰宅した。


 その次の日。学校では噂になっていた。この学校の女生徒が変質者に襲われそうになった、と言うのである。しかもその外見的な特徴は、昨日に俺が見た初老の男と同じだったのだ。勿論、担任の教諭からの注意喚起があった。とくに話を聞く女生徒達は、戦々恐々といった雰囲気だった。一人の女を除いては。

 「私の言った通りだったでしょ。」

 さも得意気に前髪をかき上げながら、この噂好きな女は着席している俺を見下ろす。どうでもいいぞ・・・。

 「でもねえ。 」

 普段は喋り倒す彼女にしては珍しく、ここで一呼吸を置くのだった。

 「この話は、そんなに単純なものじゃないのよ。」

 「は?」

 「これから変化して行くらしいのよ。」

 「へ?」

 その俺の怪訝な反応などお構いなしに、噂好きな女はクルッと背中を向けて離れていってしまった。全く勝手な女である。


 例によって今日も、俺は一人で下校した。そしてアイツは俺の期待に答えるのだ。

 (おっ・・・。)

 怪しい男が道端でフラフラと歩いていた。しかし外見は昨日の男とは違い、とても派手な服装だ。パリッとしたスーツを身に纏い、いかにも高級そうな腕時計とネックレスを着けていた。それに彼は初老の男ではない。どう見ても40歳前後くらいではなかろうか。その髭を摩る動作が、昨日の初老の男とはまた違った怪しさを醸し出していた。そして彼は、何処かへと去っていった。しかし俺には分かる。年格好こそ違うのだが間違いない。

 ~~~~~ 噂の男だ ~~~~~


 そして翌日。またしても学校は噂で持ちきりであった。またしても下校中の女生徒が変質者の被害にあった、と言うのである。内容は男が通りすがりの女生徒を捕まえて、一方的に意味深に聞こえる質問を投げ掛けてくる、という話だった。そして後ずさりする女生徒の腕をいきなり捕まえたのだという。勿論、女生徒は即座に逃げ出した。そして無事に帰宅できたらしい。

 今日も担任の教師の注意喚起はあった。なるべく複数人で固まって帰宅するように、という内容だった。至極もっともな話である。


 刺激的な毎日だ。これも変質者のお陰だ。変質者の目撃情報は毎日の様に飛び交っていた。それに加えて、あの噂好きの女の流言も話を広げているのだろう。まあ良いのだ。特に何もしなくても噂をきくだけでも面白い。それに興味深いのは、その変質者の目撃された特徴が、かなり若い男へと変化していた事なのだ。


 その日の放課後。下校時間である。

 「きゃっ!!」

 その変質者が、通りすがりの女生徒の襟首を背後から捕まえた。必死に抵抗する女生徒を、変質者は押し倒し馬乗りになる。そして女生徒の上着を容赦なく乱暴に引き裂く。

 「きゃ、きゃあー!!!」

 余りの恐怖に、その女生徒は半狂乱になった。しかし・・・・。

 「やめないか!!」

 その変質者は背後から、羽交い絞めにされた。警戒態勢に入っていた警官が、女生徒の悲鳴で駆け付けたのであった。

 

 警察署で取り調べを受けていた。動機について尋問されたが、そんなもの答えようがない。その日には流石に返してくれなかった。俺は拘置される身となった。

 今思うと、その噂好きの女の言ったことは本当だった。噂話は変化したのだ。何故、その変質者は俺になったのだろうか。あの道で見かけた、くたびれた初老の男・派手な身なりの40歳前後の男は何者だったのだろうか・・・。あれは実は俺自身の願望だったのかも知れない・・・。

 でもまあそんなことは、もうどうでも良いのだ。形はどうであれ、刺激的な毎日が手に入ったのだから・・・・。


                               噂の男 <終>

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