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●07

 

「いらっしゃい!」

「お、おう。すげぇ歓迎されている感じだな」


 魔女の館に来るのは二度目。

 今日は庭先に魔女がいなかったので、玄関をノックすると勢いよく魔女が飛び出してきた。

 主人が帰ってきたときの犬のようだと思った。

 そんなに俺が来たことが嬉しいか。

(こんな森の奥深くに一人で住んでいるんだもんな。人恋しくもなるよな)


「うん、待ってたから」

「お、そ、そうか。そんなに俺に会――」

「支給品!早く!」


 笑顔で手を差し出してくる魔女。

 魔女が待っていたのは、俺ではない。

 俺が背負って持ってきた支給品だった。

 俺のことを待っていたのかと思って、少し可愛いところがあるなと思ったのに。


 今朝、登城すると上官から「あのお方に」と託されたリュックいっぱいの支給品。

 定時伝令の他に、二週に一度、こうして支給品を届けるのも仕事らしい。

 バゲットが飛び出しているリュックを見て、特任伝令係が軍の中でお世話係と揶揄されている理由がわかった気がした。



 そういえば、初めて魔女の元に行った翌日。ウーゴに会った。

 出会い頭にがしっと肩を組んできて、声を潜めてきた。


「俺は俺たちの友情を信じている。な?」

「あ?なんだ、急に」

「で?本当に陛下の愛人だったか?」


 何を言われるのかと真剣に耳を傾けた俺がバカだった。

 ちゃんと「愛人ではない」と否定しておいたが、あの目はまだ信じていない――――


 三百年も生きているという魔女。

 どこまで本当なのかわからないが、魔女から渡された書簡の返事を上官に渡せば、「確かに」と言った。

 今、目の前にいるこの少女が魔女だということは間違いない。


 だとしたら、陛下と契約している凄い魔女ということになる。

 軍属になったばかりの俺がタメ口をきいていい相手ではない。

 だが、俺は今さら彼女の前で敬意を払った態度に変えるのも変だろうと、前回のままの態度で接してしまっている。

 魔女が気にした様子がないので、まあ許してくれているのだろう。


 どこか嬉しそうに支給品を検分していた魔女が、ぱっと顔を上げた。

 俺の顔をじっと見てくる。


「ん?どうした?」

「クッキーは?」

「クッキー?」

「入ってないよ。クッキー」

「元から支給品のリストにクッキーなんてなかったぞ」

「えっ。そうなの?あ、じゃあもしかしてロマノさんが個人的に持って来てくれてたお土産だったのかな……。支給品だと思ってたからちゃんとお礼したことなかった……」


 そう言いながら、魔女は残念そうに眉を下げる。

 楽しみに待っていたのに、お土産を買い忘れた父さんを前にした妹を思い出す。

 この魔女に対して庇護欲をそそられる理由がわかった。

 妹と重なる部分があるからだな。

 だから、世話を焼いてやらなければという気持ちになるんだ。


 自分で納得すると、「やっぱりお世話係なんだろ?」とウーゴの声で空耳が聞こえた気がする。


(俺はお世話係ではない……!)


 しかし、しょんぼりと眉を下げて先ほどまでの元気がどこかに行ってしまった魔女を見ていると、こちらが悪いことをしている気になってくる。


「あっ、そうだ。クッキーはないが調味料は持って来たぞ。ほらっ」

「……ふぅん。ありがとう」

「おい。もう少し食いつけよ」


 のろのろと支給品を戸棚に仕舞い終えた魔女が、ローブを纏い始めた。

 体を覆い隠すようなローブを着ると、初めて魔女らしい姿になった。


「どうした?」

「暗くなる前にちょっと行くところが」

「この時間からか?もう夕方だぞ」

「陽が落ちる前に戻ってこられるから大丈夫」


 そう言うと鐘と杖のような物を手に一人で森の中に向かおうとしたので、俺も付いていくことにした。一応、軍人だし。銃もナイフも持ってるし。


 鬱蒼とした森の中に魔女と足を踏み入れる。

 二度目でもどこか重い空気に内心緊張しながら魔女の館まで来たのに、今は空気が軽く感じる。

 いや、正確言えば重い空気がどんどん軽くなっていく。

 魔女のほうを見れば、耳に届かないくらいの声量で何かを呟きながら歩いているようだ。


(魔法か……?)


 そうして五分も歩かないうちに、森の中に立派な建物が現れた。


「なんだこれ……。神殿?こんなものがこの森にあったのか……」


 驚いていると、魔女は躊躇なく中に入っていく。


「おいっ、勝手に入っていいのか?」

「大丈夫。そこで少し待ってて。すぐ終わるから」


 俺が躊躇している間に、魔女は建物の奥へと足を進めて消えてしまった。


 そわそわと待つこと十分。

 魔女は本当にすぐ戻ってきた。


「お待たせ。終わったよ。帰ろう」

「ああ。何をしてたん――」


 建物から出た瞬間、俺の背後で急にガサッと音がした。


「っ!!」


 音がしたほうに握っていたナイフを向けると、草むらから毛の長い猫が出てきた。

 こんな所に猫?と思いつつ、気を緩めかけたそのとき、普通の猫にはあり得ないものが目に入る。


「尻尾が三叉に分かれている!?魔物だ!」


 本当に魔物が住んでいるのか!と身構えて、そういえば魔女は?とハッとした。

 自称不老不死とはいえ、魔女は魔物に対抗する術を持っているのか?俺が守ってやらないといけないんじゃないか――――


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