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 特任伝令係の任を解かれてひと月。

 何度か森に入ってみたが、ルーナの住む館に辿り着くことができなかった。

 何度目かの挑戦後、森の入口でウーゴが待ち構えていた。


「なぁ、リベリオ。もう一度挑戦しないか?」

「当たり前だ。今日は日が暮れてしまうから明日また行くさ」

「そうじゃない。もう一度、出兵して武功をあげないか?国境沿いでやっぱり争いが起こったらしいんだ。明日、第一陣の募集がかかる」

「そうなのか。…………」


 俺が森へと振り返ると、ウーゴに肩を掴まれた。


「しっかりしろ!陛下にばれたのにお咎めなしってだけで感謝しなければならないだろ?まだ諦めてないって知られたら今度こそ――」

「だからっ!ルーナは愛人じゃない!」

「どっちにしろ、お前は振られたんだよ!」

「…………」

「……志願しにいくぞ。武功をあげて男として魅力的になればそのルーナとかいう女からも見直されるかもしれないだろ」


 翌朝ウーゴに引き摺られるようにして、出兵の志願をしにいった。

 そして俺は、王都を出た。


 国境沿いでは、どちらの国にも属していない少数民族が自分たちの領地を主張して、少数民族同士が結託していた。


 戦場に行って愕然とした。

 これまで俺が参加したことのある戦場では、国同士、兵士同士のぶつかり合いで、統率が取れていた。


 今回の敵は様々な少数民族が集まっているため、それぞれの戦い方が違う。


 右翼と左翼で全く違う動きをしている上に、魔物を使役しているので、動きが読めない。

 今回の指揮官は完全に対応しきれていなくて、現場が混乱していた。


 そんな中で現場に送られ、自分の命を守りきるのに精一杯だった。

 山の中を移動中、魔物使いが俺たちの部隊を攻撃してきて、皆バラバラになった。


 生い茂る草木で、遠くまで見通せない。

 仲間たちと逸れ、一人で慎重に進んでいると朽ちた建物跡に行きあたった。

 石造りの小屋だったようだが、屋根が崩れて微かに壁が残っている。その壁も草木に侵食されている。

 まるで小屋が森に飲み込まれているように見えた。


 一先ず身を隠せそうな場所が見つかり、ほっとして建物跡へ近づく。が、一歩近づくごとに、ぞわぞわと寒気がし始めた。


(……なんだ?ここに来たことがある気がするのはなぜだ?)


 すぐそこまで記憶が蘇りかけていることはわかるのに、何かに引っかかって何も思い出せない。


(うっ……気持ちわりぃ……)


 思い出せそうで思い出せない。

 寒気のするような嫌な感覚だけが体の奥底から湧き上がってきて、吐き気がする。


 俺は本能的にそこから離れた。

 何かに駆り立てられるように走って逃げ続けた。

 日が落ちてこれ以上動き回るのは危険になり始めたころ、今度は朽ちかけた塀に行きあたる。先ほどの建物跡に比べたら、しっかりと建造物が形を保っている。


(森の中で野宿するよりはいいよな……)


 塀の中に足を踏み入れると、空気が澄んで感じた。

 昼間に見た朽ちた小屋は息が詰まる感覚だったが、ここは呼吸がしやすくなった。


(ルーナの館に近い空気感だな……。心地良い)


 中央にある立派な建物も、今は使われていないとわかる。

 だが、屋根も壁も扉もちゃんとある。

 野ざらしで野宿をするより上等だと思った俺は、その建物の中に足を踏み入れた。


(……まただ)


 また何かを思い出しそうなそわそわした感覚になった。

 ただ、昼間とは違い、嫌な感覚ではない。


 なぜか知っているかのように足が勝手に進む。

 二階の中央にある一室。

 部屋の中に入ると、古そうなベッドや机が残されていて、昔ここに人が住んでいたのだとわかる。


 部屋の中央に足を進めると、テーブルの上に見覚えのあるものを見つけた。


「これっ……!」


 それは、ルーナが持っていた物とよく似た杖。

 俺は思わず手に取って、杖をまじまじと見た。

 よく見てみれば、杖には名前が刻印がされている。


「……古語か?……ディ、アーナ……?」


『呪われろ。呪われろ!いつか必ずお前の手で殺すときがやってくる!必ずだ!ヒッヒッヒィヒッヒッ――』


 突如不気味な笑い声が頭の中で木霊し、俺の記憶が途切れた――――



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