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○48

 

 離宮に住んでいる間、聖女の仕事と並行してずっと研究していたことがある。

 私が死ねる方法。

 可能性のある方法を見つけるたびに試したけど、死ねなかった。


 ある日、ずっと住んでいた離宮では何かと遠すぎるから王城の森の奥に移り住むよう、当時の王から言われて移り住んだ。聖女の祈りや浄化を遠隔で届けられる魔道具が開発されたから、王城の裏にある神殿で祈祷や浄化を行って欲しいと言われて。


 離宮内やその周辺にある古い文献は全部読んだし試した。それでも見つからなかった。

 王城や神殿にはまだ私の読んでいない文献が眠っているはず。

 それらを自由に読むことを条件に、この館に移り住んだ。

 ……側に王家の霊廟があって、エルヴィンもそこに眠っているというのも決め手となった。



 四度目に生まれ変わった彼に出会ったのは、今から約五十年前。

 それまでは、彼が亡くなると魂がすぐに生まれ変わって会いに来てくれていた。

 だけど、その前の彼が亡くなってから四度目の生まれ変わりの彼が現れるまで、少し期間が空いた。


 だいたい彼が亡くなると十五年から二十年くらい経つと、また生まれ変わった彼が私の前に現れていたのに。

 そろそろ来るかもと思ってから十年、二十年と経つにつれて不安になった。


 私がもう会いたくないと思ったからだと後悔した。

 もう会いに来てくれないのか、もう二度と会えないのかと思うと寂しくて、どんな形でも会いたいと願うようになっていた。王都に移り住めば、ますます彼と会えなくなるかもしれないと思って、移住を快諾するのではなかったと後悔もした。


 迎えが来て、連れてこられた二百年ぶりくらいの王都は様変わりしていた。

 見たことのない物や建物だらけで、呆けているとエルヴィンの魂を持っている彼を見つけた。

 その瞬間、勝手に涙が溢れてきて止まらなかった。

 嬉しくて嬉しくて、彼がまた私に求婚してくれたときは本当に幸せだった。


 だけど、冷静な自分もいた。同じ早さで歳を重ねることができない私と彼の行先を考えてしまって、応えられなかった。

 彼の立場も、私と自由に恋愛することを周りが許さなかった。

 他の人と結婚しなければならないことを泣いて謝る彼を、精一杯の笑顔で送り出した。

 それなのに、結婚した彼は幸せそうではなくて……。

 結婚したのに時々会いに来る彼を怒ると『政略結婚なんだから、妻にもそういう相手がいるんだ』と言われて迷った。

 私のところに来る回数が増えていって、絆された私は自分の気持ちに素直になろうと思った。

 その結果、私は彼に家族や友人を捨てさせてしまった。


 この時の彼を見送った後に思った。

 どうしても私は彼に会いたくなってしまう。

 それなら、深く関わらないようにしよう。

 それなら、きっと別れのたびにこんなに悲しむことはないはずだ。私が彼の人生と共に歩めなくても、心の底から彼の幸せを願えるはずだ――と。


 そして五度目の生まれ変わりも、彼と私は出会う運命にあるらしい。 

 折角誰とも会わないように街には行かなかったのに、彼のほうからやってきた。

 出会いを避けられないなら、好かれなければいい。

 そう思って、初日からいきなりからかったりして好かれにくいように振舞ったつもりだった。

 彼もいきなり私に剣を突きつけてきたし、ちょうどいいと思ったのに。

 意味がなかった。


 今回は衝撃的な再会だったけど、彼が軍人に生まれ変わったのは初めてだった。

 鍛え上げられた体格を見て、薄らとこういう人になら殺してもらえないだろうかと思った。

 だけど、さすがに愛する人に殺してほしいと頼むことはできないと思っていた。

 それなのに……。


 凄く前向きな軍人のことだから、『殺して』なんて衝撃的なことを言っても懲りずにまた説得しにくるだろう。

 自分のことも私のことも覚えていないのに、愛を伝えようと必死になる軍人。

 次こそはきっと抗えない。

 だけど、その後に待っている悲しみと喪失感はもう味わいたくない。


 もう会わなければ、きっと大丈夫。

 そう思って国王宛に手紙を書いた。



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