○47
(愛する人に自分を殺して欲しいと願うなんて……。彼は覚えてなくても、彼に願っては絶対だめだったのに……)
普通の体に戻りたいと思っていたし、いい加減死にたいと思ったことは何度もあるけど、殺してほしいと願ったことに自分でも驚いた。
はぁ……とため息をつけば、ソルが猫らしくお座りしてじっと顔を見てくる。
「だから言ったのに。やめとけって」
「……だって…………」
「あいつが前回死んだときにもう嫌だと泣き続けていたから、忠告したのにな」
「深入りしないって決めてたのに……会ってしまったらだめね」
一度目。エルヴィンの魂を持って生まれ変わった彼が初めて私の前に現れたときは、本当に嬉しかった。
エルヴィンと同じ位置にほくろがあって同じ癖を持っていたから、すぐにエルヴィンだと確信した。
そして惹かれ合った。
私のことを覚えていないことが本当に悲しくて、思い出させようといろんな思い出話を聞かせた。
それでも、彼は私のこともエルヴィン自身の記憶も思い出さない。
悲しくて辛いけど、それでも良かった。
また一緒にいられることが、会えたことが嬉しかった。
だから、彼が生を終えようとしているときに強く願った。また会いに来て――と。
二度目に生まれ変わった彼も私を覚えていないし、エルヴィンの記憶もない。前回の記憶ももちろんなかった。
だけど、やっぱりエルヴィンと同じ位置にほくろがあった。
ただ、一緒に過ごしていると次第に、彼はエルヴィンとは別人なのではないかと思うようになっていって、エルヴィンを裏切っている気持ちになって苦しかった。
だけど、彼は確かにエルヴィンの生まれ変わりだと確信していた。裏切っていないと自分に言い聞かせた。
やっぱり彼は私のこともエルヴィンの記憶も思い出さなかった。
この時の彼はまた立場のある人で、独り身でい続けることが許されなかった。彼は無理なこととわかっていても、私を伴侶にと望んでくれた。
だから、彼を思って一度は身を引いた。私は結婚しても表に立つことはできないから。
だけど、本当は私自身の逃げでもあった。本当にエルヴィンを裏切っていないと言えるのか、そこに迷いがあったから。
でも、愛する人が別の女性と結婚するのを見るのはとても辛かった。やっぱりずっとそばにいたかったと強く思った。
三度目に生まれ変わった彼に会ったとき、迷った。
相変わらず同じ位置にほくろはあるけど、記憶を引き継いでいない彼。
この頃にはエルヴィンと過ごした頃とは時代が大きく変わっていて、男女が自由に会えるようになってきていた。
純粋な彼は私に結婚を申し込んでくれた。舞い上がったけど、応えられなかった。
それでも優しい彼は、私の側にずっといてくれた。
次第に覚えていなくても思い出してもらえなくても良いと思うようになっていた。
彼に好かれたくて、変に思われないように話し方もその時代風に改めた。
夫婦同然のような生活をして、幸せだった。
だけど、それも短い間だけ。
彼は自然に年を重ねていくのに、私は時が止まったままで周囲の人が訝しみ始めた。
彼は関係ないと言ってくれて、離宮近くの山の中で自給自足のような生活を二人でした。
貧しい生活だったけど、幸せだった。
だけど、彼を看取るのが一番辛かった。
幸せだったから、この時が一番辛かった。
次に生まれ変わった彼がいても出会いたくないと思った。
幸せな時間が長くなると別れが辛くなる。
また彼との別れを経験するくらいなら、いっそこれまでの思い出を大切にしながら生きていけばいいと思った。
それくらい辛かった。
暫く、喪失感で何もできなくなった。
眠れないし食欲もない。
毎日ぼーっとエルヴィンや彼らとの思い出を反芻するだけの時間を過ごしているのに、弱ることもない肉体。
私は不老不死で、彼の跡を追うこともできないという現実を改めて突きつけられた。