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○38

 

「それじゃあまた来週伺います。――あ、そういえば」


 いつも通りオクタヴィオが薬の材料を届けてくれて、できあがった薬を回収して帰る。

 玄関を開けたところでオクタヴィオが何かを思い出したように振り返った。


「どうしたの?」

「今日、国立軍の訓練所辺りで火事があったようです」

「えっ……。大丈夫だったのかしら?」

「幸い火薬庫には延焼しなかったようですが、小屋が二棟ほど焼けて、火傷を負った者が大勢。重傷者もいるとか。次の伝令で火傷薬を少し多めに作るように依頼がくるかと――」


 最後まで話を聞かぬまま、軟膏を手に取ると走り出していた。

 もしも、軍人が火傷をしていたら。

 怪我や火傷程度ならまだいい。


 この生を終えても、彼の魂はまたきっと私に会いに来てくれるだろう。

 だけど、何度経験しても彼が死ぬのは辛い。


 とにかく無事を祈って走った。


 しかし、街に着いてから気づいた。

 私は軍人の家も、名前も知らないということに。


 名前は敢えて聞かなかった。

 名前を聞けば、呼べば、それだけ情がうつってしまう。

 今回こそは深く関わらないようにしようと思っていたから。


 走ってここまで来たのに、次の一歩をどちらに向けたらいいのかもわからなく、立ち尽くしてしまう。


「あ、よかった。追いついた。どうされたんですか?急に」


 振り返ればオクタヴィオが肩で息をしながら立っていた。


「あの伝令係!わかる?今の伝令係。森で会ったって言っていた。彼の家はどこ?」

「顔はわかりますが……。彼は平民のようですので、名前までは。平民が多く住む地域ならわかりますが」

「それ、どちらにいけばいいの?」

「あちらの方角で――あっ、お待ちを!軍の人間なら、城に行ったほうが早いですが」

「だって、私はお城にはあまり顔を出さないほうがいいから……」


 聖女信仰がほぼ廃れ、今でも変わらぬ信仰心を持っているのは王族や過去に聖女を輩出した家の一部だけだという。

 一時は邪教とまで貶められ、聖女は魔女と一緒くたに扱われた過去がある。

 今では聖女と魔女は別だと教えられるらしいが、実際にどう認識されているかは、私が森の奥に住む魔女と言われていることからもわかる。

 あの森へ呼ばれたときに王家からも、誤解されては面倒だからとあまり城に来ないでほしいというのが伝わってきていた。

 だから、城には極力行かないほうが良いだろう。


 暫く一人で彷徨っていると、オクタヴィオが戻ってきた。

 城で軍人の家を聞いてきてくれた。


「念のためまだ城にいないか確認したら姿を見ていないとのことで、帰宅している可能性が高いです。正確な場所まではわかりませんでしたが、おおよその住所はわかりました。こちらです」

「ありがとう」


 オクタヴィオについて行き「この区画のどこかにあるらしいです」と言われた場所は、小さな家が建ち並んでいた。

 道行く人に「国立軍に入隊している二十歳くらいの男の家を探している」と尋ねまわり、ようやく辿り着いた小さな家。

 もう外が暗くなり始めているので、家の窓から明かりが漏れていた。


(どうか無事でいて……)


 緊張しながら玄関扉をノックする。



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