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●37

 

 ここに来た回数はそう多くないが、部屋の中の物はいつも同じ場所に同じ物が置かれていた。

 それで、キャベツや干し肉を手でちぎるくせに、几帳面なところもあるんだなと思っていたのだ。

 しかし、見慣れない物は棚の真ん中の目立つところに置いてあった。

 年代物に見える小瓶。

 ガラス製ではなく、銀製のかなり細工の凝った入れ物だ。

 量産が進んでいる今の時代、あれは明らかに職人の手によるもので相当高価なものだとひと目でわかる。

 銀製なのにくもりがなく丁寧に手入れされている。

 俺のような平民が手を出せるような代物ではなさそうだ。


 美しく高そうな物ではあるが、そういう意味ではなく、妙に気になる物だった。

 立ち上がって手に取ろうとすると、阻まれた。


「あーっ!」

「なんだよ?」

「なんだよはこっちが言いたいわよ。何?急に」

「いや、気になったから」

「ひ、人の家の物を勝手に触るの禁止!」


 魔女の言っていることはもっともだ。

 だけど、俺は咄嗟に恋人にもらった物なのかと思ってしまい、気分が良くなかった。


 結局、露店で買った物を渡せないまま帰ってきた。

 わざわざ妹との買い物から帰宅した後に買いに行き直したのに。



 ◇



(汗かいてすっきりしたい気分だな)


 モヤモヤとした気持ちを抱えたまま城に戻ってきたせいで、そのまま家に帰る気になれなかった。

 訓練場へ向かい、他の奴らに混ざって一緒に汗を流す。


 小一時間鍛錬をし終えると、それまで一緒に鍛錬していたウーゴが急に肩を組んできた。

 汗をかいた野郎にくっつかれると気持ち悪い。


「なんだよ?やめろよ」

「まぁまぁまぁ」


 振りほどこうにも相手も同じ軍人。

 そう簡単ではなかった。


「この前、女の子と一緒に歩いてただろ?誰だよ」

「この前?あー。妹だ。最近会ってなかったからって、うちの妹の顔を忘れたのか?給料日後だからってせがまれて」

「いや、妹の顔くらいわかってる。あれは妹ではなかったぞ。給料日よりも前だ。仕事さぼってデートとは、案外いい度胸してるな」

「は?…………っ!」


 ルーナと買い物に来ていたのを見られたのだ。

 街に出れば誰かに見られてもおかしくないが、仕事中にデートしていたと思われるのはまずい。

 しかし、違うと説明しようにも、あれでも仕事中だと言えば、詮索されること間違いない。

 任務のことも魔女のことも言えないのでは、何も説明できない。


「大丈夫だ。黙っててやるから」


 俺がどう説明するべきか考えていると、あたかも訳知り顔でニヤニヤしているウーゴにイラッとする。


「仕事の後の一杯にも付き合わない奴でも彼女とデートはするんだな?」

「違うん――」

「いい、いい。俺は安心したんだ。お前はもう少し不真面目になってもいいと思っていたからな。紹介してくれよ」

「彼女じゃない」

「じゃあ彼女候補ってわけか?友達以上恋人未満って時期、いいよなぁ」


 それからウーゴは俺そっちのけで、ペラペラと友達以上恋人未満の良いところとやらを話していた。


(彼女候補か……って、俺はルーナと付き合いたいとか思っているのか?)


 俺は、ルーナへの気持ちにただの好意以上のものが、自分の中にあることには薄々気づいていた。

 だからって、彼女と付き合うことは考えたこともなかった。


 ほんのりと特別な感情が芽生えてしまったのは認めざるを得ないが、俺は特別任務を任された伝令係で、ルーナはその伝令先。


(どうこうなるなんて、無理だろ)




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