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○28

 

 黒き魔女の要求がなんだったのか、聞き漏らさないようにと私はしっかりエルヴィンの目を見た。

 エルヴィンは迷うように視線を動かし、唇に力を入れたのがわかった。


「私にできることはない?もしかしたら、何か手伝えるかも。何を求められたの?ねぇ、私も力になりたいの。教えて」

「ディアーナに手伝えることは何もない!何もしないでくれ!」

「そ、そう……ごめんなさい……」


 聖女として、エルヴィンの婚約者として、私にできることはするのが当たり前と思ったけど、出しゃばりすぎてしまったのか。

 急に突き放されたような気がして、私は下を向いてしまう。

 すると、エルヴィンは慌てて「ごめん!きつく言いすぎた……」と謝ってきた。

 それから少しして、ようやくエルヴィンは黒き魔女の要求を教えてくれた。


「自分を妻にするなら、悪戯をやめてもいいと言われた」

「え……。黒き魔女は、妃になってこの国を牛耳りたいということなの?」

「理由まではわからないけど、その可能性は高い」

「……どう……なるの?」


 この国は一夫多妻制ではない。

 黒き魔女の要求をのむことになれば、私はエルヴィンの婚約者から外れることを意味している。


「陛下の判断次第だけど、黒き魔女を王家に入れることは有り得ないと思う」

「わ、私……もっと頑張る!もっと祈りを捧げて、浄化の回数も増やす!どんなに悪戯されても負けないように頑張るから!だから……」

「わかってる。ディアーナに負担をかけてしまうかもしれないけど、他に納得してくれる方法がないか交渉を続ける。僕だってディアーナと結婚したい。ディアーナ以外なんて考えられないよ」


 エルヴィンは私を抱きしめ、「この香り、思った通りディアーナに合ってる。ほっとする……」と言って肩に顔を寄せる。


 エルヴィンの言葉に、私もほっとしていた。

 エルヴィンにその気がないのだから、大丈夫だろうと安易に思っていた。



 エルヴィンは黒き魔女の要求を陛下に伝えた。

 話を聞いた陛下も、さすがに黒き魔女を王家に迎え入れることはできないと判断。


 エルヴィンは黒き魔女に正式に断りに行った。

 今住処が建っている土地を取り上げることはしない――というあまり効果的ではなさそうな交換条件を持って。


 もう二度と会えなくなるのではないかと不安に押しつぶされそうになりながら、私はエルヴィンの帰りを待った。

 暗くなり始めたころ、無事に彼は離宮へ戻ってきた。


「言葉を尽くしたが、結局諦めないと言われてしまった……。だけど、こうして帰してくれることを思うと、まだ話せる余地はある」

「確かに。噂に聞く黒き魔女なら、今ごろどこかに閉じ込められていそうだものね。……また行くの?」

「いや、行かない。こちらの答えは伝えたから、しばらく様子を見る」



 その翌日から、私が担当する区域に魔物の出現率がぐんと上がった。

 今までだったら鬱蒼とした森の中や日が落ちてから出やすかった魔物が、昼夜問わず人里付近にも出現するようになった。

 王都から討伐隊が増員され、私は浄化に繰り出す日々を過ごすことになる――――



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