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○27

 

「――ヴィン?」

「…………」

「エルヴィン!」

「…………あ、ごめん。何?」


 共に夕食を取るのは久しぶりなのに、エルヴィンは心ここに在らずといった様子。

 何か考え事をしているようで、険しい表情をしているし、食事も進んでいない。


「もしかして、黒き魔女は見つからなかった?いきなり見つからなくてもそんなに深刻にならずとも大丈夫よ」


 一度私の顔を見たエルヴィンは、すぐに視線を逸らした。いつもと様子が明らかに違う。


「……それとも、何かあった?」

「いや、別に」


 いつになく早い返しと素っ気ない言い方をするエルヴィン。

 私に話すことはないと突き放されたようで、内心少し傷ついた。 


「あー、いやっ。話す。隠しておけない気がするから……」


 深刻な様子に先ほどとは違う痛みが胸に走った気がした。

 食事の手を止めて、しっかりと話を聞く。


「黒き魔女とは難なく会うことができた」

「え。それは凄いわね」


 黒き魔女との対話が目的なのに、今朝エルヴィンが離宮に来た時点では正確な居場所を特定できていなかった。

 というのも、黒き魔女に限らず多くの魔女は住処を魔法で隠しているため、出没情報からおおよその場所しか知られていない。

 だから、しばらくこの離宮に滞在して黒き魔女の正確な居場所を突き止める予定だった。

 それが、いきなり会えたとは。


「話し合いに応じてくれそうな雰囲気だったから、話したんだ。そうしたら、いたずらをやめた上で、土地を諦めてもいいと言ってくれた」

「えっ。それは凄いけど……」


『諦めて()いい』

 この言い方は、何かと引き換えに条件を飲むなら――ということ。

 エルヴィンの表情から、その条件が難しい内容だということが伝わってくる。


 黒き魔女はいったいどんな無理難題をふっかけてきたのか……。ここにきて嫌な予感が当たりそうで、胃が重く感じる。

 私は視線で続きを促した。


「それが、何が目的なのかよくわからなかったんだ」

「どんなことを言われたの?」

「ただ『明日も来て』とだけ」

「明日?明日って、何かある日だった?」

「特には。だけど、言葉通りとは思えない。何か要求が隠されていて、試されている気がしてならないんだ。明日、答えを持って行かなければならないはず。ただ、何を求められたのかわからなくて……」


『明日も来て』にはどんな意味があるのか。

 私も一緒に考えてみたけど何も思いつかない。


 エルヴィンの従者や離宮の従者も合わせて全員で考えてみたけど、誰も閃かなかった。




 答えが見つからないまま、エルヴィンはまた黒き魔女と会うために森の奥へと向かう――――




 数時間後、今日も無事にエルヴィンが戻ってきた。ほっとしたけど、エルヴィンは昨日以上に難しい顔をしている。


「今度こそ無理難題を言われた?」

「いや。また『明日も来て』とだけ」

「えっ。また?」

「うん。今日、何も答えを用意できないまま館に行ったから、機嫌を損ねられるかと思ったんだけど、そんなこともなく……。もしかしたら、度胸を試されているのか、信頼に足る人間か見られているだけなのか……。とにかく明日も行ってくるよ」

「そう……」


 翌日もエルヴィンは黒き魔女へ会いに行く。

 昨日は無事だったとしても、二日連続で意図を汲み取れなかったのだから何かされる可能性がある――そう思い、心配で彼を見送りに出た。

 そのとき、またゾクリと寒気が走った。


「ディアーナ?どうした?」


 私の身震いを見逃さなかったエルヴィン。

 本当のことを言うと心配かけてしまいそうなので、「風が冷たく感じた」と誤魔化す。

 エルヴィンはそっと肩を撫でてくれる。


「風邪をひくといけない。もう中に入って。暖かくして待っていて」

「ええ。ありがとう。……くれぐれも気を付けて」

「大丈夫。必ず帰るから。いってくる」

「いってらっしゃい」


 今日こそ戻らないのではないかと気が気ではなかった。

 だけど、エルヴィンは無事に戻った。

 今までに見たことのないくらい、深刻な表情をして。


「もしかして、黒き魔女が何を求めているのかわかったの?」


 エルヴィンは私の顔を見た後、視線を逸らしてから頷いた。


「何を言われたの?難しいことを言われたのでしょ?教えて」



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