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○24

 世話係が扉を閉めてから念の為十秒数えた後、急いで窓を開ける。

 まだ先程と同じ姿勢で微動だにしていないエルヴィン。


(あ、こんなところにほくろがあったんだ)


 つんつんと首の後ろにあるほくろをつつけば、ビクッと反応した。

 息を潜めるのに必死で世話係との会話を聞いていなかったのだろう。


「もっ、もう大丈夫よ」

「いったのか?って、笑うなよ」

「笑ってないわ」

「声が震えてる」

「だ、だって……あはは!ぶっ、不格好なんだもの!あっははは!」

「しぃー!また世話係が戻って来てしまうから!静かに!」

「っ!」


 慌てて口を結ぶ。


「…………」

「…………」


 慌てて振り返り、廊下に繋がる扉に視線を送るが、世話係が来る様子はなかった。

 ゆっくり視線をエルヴィンへと戻すと、何故かエルヴィンまで口を結んでいた。

 二人とも無意識に息まで詰めていて、目が合った途端口から空気が漏れる。

 二人で声を殺して笑いあった。


 私たちは同じ歳で、お互いにまだ十歳。

 それぞれ王子と聖女という役割はあっても、そこはまだ子供。

 仲良くなるのに時間はかからず、初めて友達ができたようで嬉しかった。


「どうして窓から来たの?」

「初めて会ったときのことがバレて、今日は反省して部屋から出てはいけないって言われたんだ」


 初めてエルヴィンと会ったのは、離宮の敷地の外でのこと。

 あのとき、エルヴィンは離宮に着いてすぐ、馬車の長旅を可哀想に思ってソルを庭で遊ばせようとしたらしい。

 まだ子供のソルは元気よく歩き回り、少し目を離した隙に姿が見えなくなってしまった。

 ようやく見つけたときには、敷地の外に出ようとしているところで、慌てて追いかけたら驚いた様子で走って逃げられた。

 夢中で追いかけていると、離宮の敷地の外に出てしまっていた――らしい。

 大人たちから敷地の外には絶対に出てはいけないと言われていたのに。


 その後に、正式に対面を果たしたあのとき、私に椅子を用意させていたし、私と会ったことを側近の大人たちに話したのかと思っていたら、そこはうまく隠して言ったらしい。

 だけど、今日になってぽろっと話してしまい、言いつけを破ったことがバレて叱られてしまったのだとか。



 ◇



 エルヴィンの婚約者になり、早いものでもう五年。

 十五歳になった私たちは、少し大人になった。

 友達のような関係から、婚約者――異性として意識することが増えていた。


 相変わらず私は離宮で過ごしていて、時々大聖女の仕事として国内各地を回る生活になった。

 エルヴィンは半年に一度離宮へと会いに来てくれ、大聖女としての仕事で私も時々王都へ行くので、多い時で年に五度程会うことができた。


 もう一つ、この五年で大きく変わったことといえば、魔術の進化。

 まだ人が転移することはできないけど、小さな物を転移させる術が確立された。

 その応用として、離れた場所に声を届ける魔術も生み出された。


 私たちは普通の婚約者のようにはあまり会えなかったけど、手紙や声で絆を深めていた。

 遠く離れていても会話ができると、心を近くさせる。

 数日に一度、就寝前に話しをするのが日課になっていた。

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