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23/53

○23

 聖女の仕事が一段落した夕方。

 私は迷っていた。


 婚約を伝えると国王陛下は帰ったけど、エルヴィンはこの離宮に残ったため、毎日朝晩の食事を共にしていた。

 時間が合えば、お茶もする。


 ここ数日の場合は、エルヴィンと夕食を共にするか確認されていたのに、今日は何も言われていない。


 今日は朝も別々だったし、夜の予定も確認されていない。

 一週間ほど毎日食事を共にしていたのに、急に音沙汰がないと気になる。


(どうしたのだろう……?たまには私から誘ってみる?)と考えながらソファに座ってゆっくりお茶を飲んでいると、コンコンと窓を叩くような音が耳に届く。

 窓へと視線を移して目を疑った。

 窓の外にエルヴィンがいたから。


「よっ!」

「えっ!!こ、ここ三階よ!?」


 慌てる私を無視して、エルヴィンは半分開けていた窓から顔を出してきた。


「うん。だから、入ってもいい?ソルにおもちゃ持ってきた」

「早く入って!危ないから」

「大丈夫だって。って、うわぁ!」

「きゃあぁぁ!?」


 エルヴィンの体ががくんと下がって、窓から姿が見えなくなる。

 絶対落ちたと思った私は窓へ駆け寄り、慌てて窓の下を覗く。


「……え?」


 窓の下にはぎりぎり人が立てるくらいの突起があり、エルヴィンはそこにしゃがんでいた。

 こちらを見上げて悪戯な笑みを浮かべている。

 私と目が合うと一層ニヤニヤと楽しそうだった。


「本当に落ちたと思った?」

「……くだらないことしないで。本当に落ちたらどうするの!?」

「ごめんごめん。怒らないで。本当に入っていい?」


「早く入って」と言おうとした瞬間、世話係が慌てて部屋に入ってきた。


「聖女様!?何かございましたか!?」

「え!?どうして!?」

「悲鳴が聞こえた気がしまして」

「あ、あぁ。そう、その、あ!ソル!ソルがね、窓から入ってきた虫をパクッと食べちゃったの。それで、きゃーって……」


 苦しい言い訳かと思ったけど、世話係はほっとしたような顔をした後、呆れ気味に息を吐く。


「虫ですか。まぁ、きっと大丈夫ですよ。それよりも、窓を開けたままではまた虫が入ります。閉めましょう」

「あっ、大丈夫!自分で閉めるから!私のが近いし、今閉めようと思っていたの」


 世話係がこちらへと足を進めたので、私は慌てて窓を閉めた。

 ちらりと窓の下を確認すると、エルヴィンは壁に張り付くようにして身を隠していた。


(ヤモリみたいな姿勢になってるわ……王子なのに)


 自分から無茶な方法で突撃してきて、私の世話係に見つかりそうになったからって必死に隠れようとするエルヴィン。

 客観的にその様子を見て、笑いが込み上げてくる。


「どうかされましたか?」

「うっううん。なんでもない。もう窓も閉めたし、もう大丈夫だから。もう戻って大丈夫よ」

「……では、失礼します」


 早く出て行ってほしいあまり、もうもう言う私に、片眉を上げて訝しげな視線をなげかけてきた。

 私も眉を上げてみると、世話係は特に何も言わずに出て行ってくれた。



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